前代未聞の事故により、東海道新幹線まさかの終日運休
2024年7月22日、この日の朝は日本中に大きな衝撃をもたらす形で迎えました
東海道新幹線の豊橋~三河安城間(蒲郡付近)にて夜間の保守作業を行っていたモーターカーとマルタイが衝突し脱線、東海道新幹線は朝から運転を見合わせていました
当初は正午過ぎの運転再開を目指していたものの、結局作業が長引いたため、運転再開が行われたのは23時過ぎにまでずれ込みました
この影響で、当該となったJR東海では「最低限動かせる区間だけでも動かそう!」ということで、東京~浜松間および名古屋~新大阪間で折り返し運転を実施し、運休となった浜松~名古屋間では西浜松で寝ていた373系をたたき起こして臨時列車に充当させるなどして、必死に対応をしたものの、名古屋・豊橋・浜松の各駅ではコミケ顔負けの大混雑が発生し、JR東海自身も「駅に来ないで!」と悲痛な叫びをあげるほどでした
そして、臨時便を出したのは何もJR東海だけでなく、北陸新幹線の東京~敦賀間にて、臨時のかがやき号のスジを利用したグリーン車以外全車自由席のはくたか号を設定し、その先大阪方面へも宮原に転がっていた北陸特急族を引っ張り出してきて臨時のサンダーバードを設定、近鉄でも名阪の臨時特急を運行するなど、並行路線では全力でサポートに当たっていました。
さらに業界の垣根を超え、JAL/ANAの両大手航空会社についても臨時便を就航させたり、機材の大型化を図ったりするなどして、日本の交通網の限界を超えるとでもいうべきような波乱な1日を迎えたのでした
なお、誤解している方がいたのですが、衝突したのはドクターイエローとはまた別の車両。
病院で見立てると、ドクターイエローは、あくまで診察室で様子を見てもらっているような状況で、異常を発見したらそれを伝達して手術をします
今回の衝突が発生したのは、診察室での診断をもとに手術室で働いている車両同士が衝突した、と言えばわかりやすいでしょうか
さて、新幹線で運休といえば、今年の初めにも上野~大宮間で架線トラブルが発生し、東北・上信越・北陸の各地方を結ぶ新幹線が軒並み運休になったことが記憶に新しいと思います
その際に運行を行うJR東日本では、東京~仙台間の臨時列車を運転させたり、本来いわき止まりのひたち号を一部仙台まで延長運転を急遽行うなどの対応が行われていました
しかし今回の東海道新幹線では、全線通しの臨時列車は運転しませんでした。そのためSNS上では「JR東海は臨時列車を出さなかった!」「これだからJR東海は…」などと言われてしまっています
ですが待ってください!この件に関しては本当にJR東海だけの責任なのでしょうか?
実は、東京~仙台間の東北新幹線と、東京~大阪間の東海道新幹線では、並行する在来線も含めて全く環境が違うのです
今回は、東海道線という路線の特性や、車両・乗務員に関することなどを踏まえて、なぜ臨時便が出せなかったのかについて考えましょう
全線通しの臨時列車が出せなかったのはなぜ?
そもそも、なぜ東京~大阪間の臨時列車を入れられなかったのか、について
いくつかの要因はありますが、特急列車を使用した臨時便を出せなかった理由については、以下の4つがあげられると考えます
- 東京~大阪間の距離が長すぎる
- 会社がバラバラで、運行管理上かなり面倒
- 全線、あるいは運休区間のみを通しで走れる車両がほぼ存在しない
- 乗務員さんの確保の問題
これらについて詳しくお話ししていきましょう
東京~大阪間の距離が長すぎる
以前、運休による代替臨時となった東京~仙台間の距離は351.8kmです
対して東京~大阪間の距離は515.4kmもあります
往復で考えると、方や700キロ程度、方や1000キロ越え。300キロもの差があれば、往復でかかる時間もかなり変わってきてしまいます
仮に表定時速100km/hの特急があったとしましょう。
東京~仙台間の場合は、往復7時間程度なのに対して、東京~大阪間は10時間以上かかります
3時間の差は、かなり大きなハンデとなってしまいます。
会社がバラバラで、運行管理上かなり面倒
昔あげた動画のサムネなのは許して…
東京~仙台間を管轄する鉄道会社、と言えば真っ先にJR東日本と答えられるでしょう
では東京~大阪間はどうでしょうか。JR東海単独?いいえ、在来線の場合は本州三社と呼ばれるJR東日本、東海、西日本の各社でテリトリーが存在しています
運行管理上、イレギュラーな直通運転は消極的な傾向にある点もさることながら、これが後述する「車両の運行範囲」という面でも大きな問題に直面してしまうのです
想像してもらえるとわかるのですが、東京~仙台間の臨時列車を出す決定は、JR東日本単独で下すことが可能なことや、そのダイヤを引くのも支社ごとの違いはあれど単一企業内の決定で下せます
一方で東海道線の場合、今回のような運休区間内のみの臨時便の場合はJR東海のみの管轄だったためJR東海自社の決定を下せましたが、東京~大阪間となると、臨時列車の決定やダイヤの調整などは、東西のJR両者の顔色を窺わないといけません。
こうした理由から、東京~大阪間では臨時列車の増発が難しかったのです。
「じゃあ運休になってた浜松~名古屋間で臨時出せよ」と思った方
その理由についても次のページで語ります
全線、あるいは運休区間のみを通しで走れる車両がほぼ存在しない
東海道線を全線走破する在来線特急列車は、2024年現在「サンライズ瀬戸・出雲」のみです
一方で、今回運休となった区間のうち、豊橋~名古屋間を定期列車で走行する特急も「サンライズ」のみ
JR東海の運行系統は、豊橋駅を境に大きく分断されています。
このことが、今回の臨時列車の設定が難しかった原因のひとつです
まず、名古屋口を発着する特急列車には、以下の3種類の列車が存在します
- 383系しなの
- HC85系ひだ・南紀
- 681・683系しらさぎ
これらの車両は、いずれも熱田駅より西に定期・臨時含めて乗客を乗せた状態での営業運転は実施していません
では逆に静岡口の特急列車はというと
- 373系
こいつは大垣夜行こと快速ムーンライトながらやホームライナーで名古屋方面への乗り入れ実績はありますが、それらはすでに2013年をもって廃止になっています
もう10年以上前に乗り入れた電車を操れる人間なんてほぼいませんですし、安全性を考慮するとどうしても運行の北限は豊橋になってしまいます
こうした理由から、東海道新幹線の代替臨時については豊橋で分断せざるを得なかったと考えられます
313系を持ってくるでもいいかもですが、この場合車両数が足りなくなる懸念があったため豊橋で373系と分断したと考えます。
なお、東京〜仙台間については、臨時特急等でE653系が度々入線しているため、運転できる乗務員さんが多く、融通が利きやすかったことも仙台臨を出せた要因なんです
-追記-
373系は名古屋工場への入場でふっつーに名古屋駅に入線してました
乗務員さんの確保の問題
鉄道は全て自動で動いているわけではありません
運転手さんがいて、車掌さんがいて、駅員さんがいて、その他多くの方がいて初めて鉄道は動くのです
そういった乗務員の方たちは、安全のために常に神経をすり減らしながら働いています
こういった方たちにだって休息は必要ですが、今回のようなイレギュラーの場合は駆り出されることがあるのです
人手不足が深刻に叫ばれる中、少ない乗務員さんを無理やりかき集めて臨時列車に投入しようとすると、かなり難しいです
今回の臨時列車でも、休みの日にゆっくりしていた中呼び出されという方たちも多かったことと思います
本当に皆様ご苦労さまでした…
じゃあ豊橋までもってこれなかったの…?
となると、豊橋まで新幹線を動かして、そこから名鉄や東海道線に分散させればよかったのではないか、と思いますが
実は豊橋には渡り線がないため、上り線から下り線へ転線ができない構造なのです
浜松には新幹線の検査等を行う工場があるため、そこへの引き込み線や渡り線などを活用しながら最大限運行できるようにしていましたが、豊橋には残念ながらそれらの関連設備がないのです
JR東海自身も、豊橋までもっていくことができればどれだけよかったことか、と思います
終わりに
今回の件について、反省する点や考えさせられた点などなど、多くのことを学びました
復旧に携わった皆様をはじめ、臨時列車や代替輸送業務に携わった皆様に心より御礼申し上げます
二度とこのような事故は起きてほしくないですし、起きるべきことではありません
そして、私たち一人一人も、ただの客ではなく、鉄道輸送の安全をつかさどる者である自覚を持ちながら、鉄道趣味を深めていきたいですね
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浜松豊橋に三ヶ日経由の競合私鉄があればまだましだったのかもしれないけど、現実にはそこには山と湖があり……
天浜線という迂回ルートはあるものの、単行気動車が多くても2本/hだと新幹線の輸送力を補完するのには向いていないですからね
通常期はそこまで需要も高くなく、ワンマン化も行われる予定の区間ですが、こうした緊急時にJR単独というのは何とも心細いものですね…
天浜線と遠鉄を意図して「競合」私鉄とは書きましたが、仮に競合するほどの輸送力(8両通勤車が12分間隔で行き交うありえん光景を想定)を持ってたとて新所原から豊橋がどうにもならないんですよね……