2011年３月11日の東日本大震災から明日で14年が経過します。
鉄道史においてもこの災害の影響は海沿いの路線を中心に甚大なものとなり、被災地への石油のため迂回臨時貨物列車が運行されたほか、福島第一原子力発電所の事故により首都圏を含む東日本各地で計画停電が実施され、鉄道事業者においても節電対応を余儀なくされました。
本記事では各社で実施された計画停電対応のうち、特に柔軟な対応を採った京成電鉄の計画停電ダイヤを振り返ります。
発災と首都圏の鉄道各社
東日本大震災は2011年３月11日14時46分、東北地方太平洋沖を震源として発生した超巨大地震です。
我が国における観測史上最大規模となる強烈な揺れと、それにより発生した津波により多数の死者・行方不明者・負傷者が生じ、戦後最悪の自然災害と言われています。
首都圏の鉄道網に絞ると、地震早期警報システムにより首都圏の鉄道は全て停止し、鉄道各社では長時間の運転見合わせを想定し駅間で停車した列車から旅客を降車させる対応が採られるなどの混乱が生じました。
“帰宅難民”というワードでのちに語られている通り、首都圏の鉄道網・道路網が完全にマヒしており、何時間も歩き続け帰宅・会社に宿泊といった選択を迫られる大混乱に陥りました。
地下に敷設された地下鉄網が比較的早期に運転を再開する一方で、地上を走る鉄道路線は安全点検が済んだ事業者・路線が夜間〜深夜にようやく運転を再開するなど、首都圏でも混乱は翌日まで継続することとなりました。
特に路線網が広大で徒歩での運転再開に時間を要することを見込んだJR東日本が、余震による駅舎等の損害リスクを心配して駅構内から“帰宅難民”を追い出す格好となったことに対し、のちに当時の石原都知事が苦言を呈したことでも知られています。
首都圏の民を襲った第二の災害
地震後に徒歩での慎重な線路点検ののちに運行を再開……という鉄道事業者各社の手筈はその後の地震でも見られるものですが、東日本大震災における特異な点としては、福島第一原子力発電所が停止したことにより採られた計画停電が挙げられます。
この停電の対象は３月14日から４月８日まで実施され、鉄道事業者についても自社で発電所・送電網を有するJR東日本以外は東京電力から電気の供給を受けている環境で大きな影響を受けました。
14日と15日は鉄道事業者を含めて輪番停電の対象となってその時刻にあわせた区間運休対応等を迫られ、16日以降は節電努力を条件に計画停電対象から外されることとなるものの、各社とも臨時ダイヤを用意するなどの対応に追われることとなります。
電球に( ˘˘ )の顔が描かれたイラストのステッカーが首都圏各地の車両に貼り付けられ(東京メトロPDF)、日中時間帯の室内照明が切られるなど、電力需要逼迫を利用者も体感する状況となりました。
癖が強かった京成電鉄の対応
昨今のコロナ禍と異なり、当時の社会情勢としては祝い事などは中止・延期の自粛の風潮こそあったものの、首都圏の大半のエリアでは通常通り業務が再開されることとなりました。
通勤需要は元通りとなった一方で節電要請に応える必要もあり、混雑悪化を承知で減便ダイヤを計画するなど各社が難しい対応に奔走することとなります。
京成電鉄では、３月22日より土休日ダイヤを基に臨時列車を挿入する格好で対処されました。
この特別ダイヤでは、平日は土休日ダイヤに加えて成田駅始発の臨時通勤特急高砂行き1本の運転と、快速特急羽田空港行き1本の特急格下げによる輸送力増強が実施されました。
前者は京成高砂駅到着後に普通京成上野駅行きとして運行されるもので、その定期列車の運行番号に京成の臨時列車で使用される“S”が冠された「6S94」列車として設定されていました。
高砂駅で種別変更を行う列車が多数あった京成電鉄とて、高砂駅以東を通勤用の優等種別・同駅以西を各駅停車で走る列車は、その後のダイヤ変遷を見ても特に異様な設定です。
通勤用の種別なのに途中駅止まり……という通常では考えられない列車が、臨時ながら毎日のように運転されることとなりました。
実需に沿ったものとは言い難く、あくまで応急処置的に実施されている点が列車ダイヤ設定の難しさを象徴する内容です。
こちらは、快速特急から特急に格下げとなり通過駅の需要を拾うべく対応された列車です。
今となっては外観として3500形が4+4両の編成構成をしている方が目立ってしまいそうですが、当時の快速特急通過駅の通勤利用者にとってはありがたい対応だったことでしょう。
９月10日に通常ダイヤに戻るまで、４月４日・５月９日・６月27日と頻繁にダイヤの変更・修正が加えられました。
４月４日以降は平日ダイヤを基に間引くような減車・減便調整が加えられたものとなりました。
実用列車の本数を担保しつつ、定期回送・事業用臨時列車の運転時刻変更、それに伴う運用変更など徹底的な効率化が実施されています。
通勤特急が朝ラッシュ下りに設定されたり、区間短縮等の調整で大和田駅発着の各駅停車が設定されたりといった趣味的にも珍しい列車設定も京成ファンに注目されました。
何より関東私鉄では比較的震源寄りを走る京成電鉄では地震影響により徐行運転が生じるなどイレギュラーな対応も実施されるなど、変更内容は多岐に渡りました。
この時期における車両運用で特筆されることとして、成田スカイアクセス線用の3000形(いわゆる3050形)の本線運用が日常的なものとなった点が挙げられます。
平日朝の成田スカイアクセス線運用と日中以降の京成線運用を繋げることで定期回送列車を削減する体制が組まれ、それ以前は極めて稀だった3050形の本線運用が常態化することとなりました。
既存車両の用途を柔軟に変更し、旅客の目に留まらない定期回送列車の削減を実施した点は、他社と比較してもかなり繊細な工夫だったと感じます。
京成電鉄は平日と土休日で運用構成が異なり、当時はほとんどなかった北総線内を走る京成車の運用にも時折登板。
京成の列車として同線を走る車両が北総の列車として運行される……といった不可思議な運行も見られました。
その後の京成電鉄が成田スカイアクセス線用3100形を1本多めに作ったり、旧来車のように柔軟な運用が可能な3200形を開発したりと、これらの采配で苦労した履歴はその後の設備投資にも影響を及ぼしていそうです。
結びに……
東日本大震災はその揺れ以上に、その後の津波により多数の死者・行方不明者をもたらしました。
今なお行方不明のままとなっている方々が早期に見つかることを願いつつ、災害及び関連で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
本災害への対応では、JR貨物と線路を管理するJR東日本による石油輸送がクローズアップされますが、深刻な電力不足を受けて東日本の鉄道事業者が一丸となって節電対応に取り組んだ点は後世に語り継がれるべきものです。
未曾有の災害を受け、大量の電気を使用している鉄道事業者各社が輸送力を保ちつつ“節電”という難しい課題に取り組み、京成電鉄のように既存の車両運用の概念を崩してまで本気で取り組んだ各社の鉄道マン・ウーマンに心より敬意を表します。
趣味レベルでは珍しい列車に目が行きがちで、その背景事情や内部で検討・実施されたエピソードなどは忘れさられがちです。
目先の珍しさばかりでなく、なぜその列車がどういった意図で設定されたのかを理解できる幅広い知識を養いたいところです。
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