ご無沙汰しております。ふぺです。
皆さんは「港」と「鉄道」の関係について知っていますか？海から船などを使って運ばれてきた魚や物資を受け取る「港」と都市と都市を結び人の流れや物流を支える「鉄道」、一見あまり関係の薄そうな2つですが、実は意外と密接に関わっているのです。例えば港町「横浜」は明治時代に開港場として栄えたため首都東京との往来が激しく、東横間での移動を楽にするために日本で最初の鉄道が建設されました。約150年後の現在でもコンビナートからの石油を運ぶために臨海鉄道が敷かれている港も多く、このように鉄道と港は昔から深く関わってきたのです。
この鉄道と港の深い関係は実はこの福岡にもあります。本州から九州へ向かう貨物列車の行き先として福岡貨物ターミナルがありますが、福岡貨物ターミナルへ向かう貨物列車は必ず千早から博多臨港線という線路を通ります。1日に多くの貨物列車が行き交う博多臨港線、今は非常に短く、近くの港と強い関係を持っている路線とはあまりいえませんが、昔はとても面白い路線だったのです。
一体どんな歴史があるのでしょう？今回はそれをじっくり見ていこうと思います。
まず博多臨港線と福岡貨物ターミナル駅とは
博多臨港線とは鹿児島本線の香椎駅を起点として、千早操車場を経由しながら福岡貨物ターミナル駅までの3.7kmを結ぶJR貨物の路線で、本州側(一部九州方面)から来る貨物列車はこの博多臨港線を経由して福岡貨物ターミナル駅へと向かいます。
福岡貨物ターミナル駅は九州の貨物列車の拠点となっており、荷役線が5本で着発線が8本ある他に駅の西側には貨車の検修庫があります。高速貨物列車や福山レールエクスプレス、カンガルーライナーNF64、東京や大阪、新潟や札幌行きなど多くの貨物列車が設定されています。また2023年度のコンテナ及び車扱の合計は東京、根岸、札幌に次ぐ国内4位と、非常に大きい駅であることが分かります。
これまで簡単に博多臨港線と福岡貨物ターミナル駅について解説しましたがこの博多臨港線、実は
福岡貨物ターミナル駅へ向かうための路線ではなかったのです。
博多臨港線の歴史
先程博多臨港線は福岡貨物ターミナル駅へ向かうための路線ではなかったと供述しましたが、実は福岡貨物ターミナル駅が開業したのは1975年、要は戦後に作られた駅です。対して博多臨港線が開業したのは1942年。こう見えて第二次世界大戦真っ只中の時に作られた路線だったのです。
今から約80年前、第二次世界大戦にて多くの国と戦争中だった日本は中国大陸方面への輸送を下関港では捌ききることはできない状態に陥っていました。そこで1942年に関門トンネル(鉄道)が開通し鹿児島本線経由で博多港を活用することが可能になったため、博多港から船で輸送できるよう建設されたのがこの博多臨港線です。
この1942年の博多臨港線開業で建設されたのが香椎駅から博多港駅までの区間。戦後高度経済成長期を迎えると博多港の拡大に伴い延伸。1954年に新たに福岡港駅、1964年に福岡市場駅が開業、また1960年代より特急鮮魚貨物列車が運行を開始しました。
しかし1970年以降から国鉄の貨物列車輸送は衰退。1982年に福岡市場駅が福岡港駅に統合。その3年後の1985年に福岡港駅が博多港駅に統合。駅は廃止されましたが”統合”だったので博多港駅の構内として線路や構造物は一部生き残っていました。しかし1998年に博多港駅から福岡貨物ターミナル駅の区間が廃線。香椎駅から福岡貨物ターミナル駅の区間のみになりました。そして2002年に鹿児島本線の一部区間高架化。香椎操車場の跡地に千早駅と千早操車場が開業し今に至ります。
ひとくち紹介1.博多港駅
まず最初に紹介するのは博多港駅。博多臨港線の最初の終端駅でもあります。
博多港駅の歴史はかなり深く1942年、博多港の中央ふ頭の東川に、そして中央ふ頭の香椎側に竜頭崎信号所が設置されました。さらに博多港駅開業と同時に博多〜釜山航路が開設されました。
博多臨港線は戦争用の物資を運ぶために作られた通り開業当時は軍用列車が走っていましたが発着は竜頭崎信号所となっておりました。そして中央ふ頭の博多港駅は博釜航路利用者のみ旅客扱いを行っており、駅本屋内には連絡船船客待合室も設置されていたようです。
しかし1986年に竜頭崎信号所から中央ふ頭の博多港駅までの区間が廃止。このタイミングで竜頭崎信号所が博多港駅に改称され、10年後の1996年に旧福岡港駅から博多港駅の区間が廃止。その2年後の1998年に博多港駅から福岡貨物ターミナル駅の区間が廃止され現在の形に落ち着きました。
初代の博多港駅があった中央ふ頭ではマリンメッセ福岡や博多港国際ターミナル、MICE関連施設などの施設が立地しており、完成自動車、自動車部品、水産品、産業機械などを取り扱っています。それに対して2代目の博多港駅があった長浜ふ頭では砂利やセメント等の建設資材を取り扱っていたようです。
そんな博多港駅では博釜航路利用者の他に各会社の引込線が多くあり、薬品工業工場からの過酸化水素を運ぶ貨車があった他、当駅からは大阪市場行きの特急鮮魚貨物列車「ぎんりん」が発着していたなど、かなり大きい駅であったことが分かります。
ひとくち駅紹介2.福岡港駅
次に紹介するのは福岡港駅。戦後の1954年に開業した駅になります。
そんな福岡港駅と博多港駅の位置関係はこんな感じ。
須崎ふ頭ではおもに海外から輸入した穀物を保管するなど大規模な穀物流通基地として機能しています。そしてこの福岡港駅はホキ2200形(粉粒体農産物輸送用貨車)がよく出入りしたことを考えると、須崎ふ頭で輸入された穀物類を当駅から運んでいたと考えるのがいいでしょう。またこの他にJR貨物の旅行代理店「JRエフツーリスト」もこの福岡港駅に併設されていたようです。
そんな福岡港駅は1982年に隣の福岡市場駅と統合。しかしその3年後の1985年に博多港駅と統合され福岡港駅は廃止されました。
ひとくち駅紹介3.福岡市場駅
次に紹介するのは福岡市場駅。この駅は福岡港駅のすぐ近くにあり、現在は福岡中央卸売市場となっています。
また当駅は博多港駅、福岡港駅、福岡市場駅の中で最も独立した駅として存在した期間が短く、1964年の開業から1982年の統合までのたった18年間しか存在していませんでした。
この福岡市場駅は水揚げされた鮮魚を即座に冷蔵車に積み込めるよう岸壁まで線路が続いていました。また明確な資料が少なくどのような貨物が取扱われていたかは詳しくは分かりませんがどうやらとびうお号として上京したレサ10000を青森県の鮫まで回送、そして福岡市場駅まですり身を輸送したことがあったようです。
福岡市場駅の名の通り当時すぐ近くに市場があった点を考えると、このように全国各地から魚を積んだ列車が当駅に多く発着していたのかもしれません。
福岡市場駅は先述の通り1982年に福岡港駅に、1985年に博多港駅に統合され廃止されましたが福岡港駅同様構内扱いで1995年まで設備は残されていました。
博多臨港線のスター、ぎんりん号
ここで先述の特急鮮魚貨物列車「ぎんりん」について解説していきたいと思います。
1960年代、下関や長崎、仙台など地方の漁港で水揚げされた鮮魚を東京(築地)や大阪といった大都市に輸送するために鮮魚を運ぶ専用の列車が走るようになりました。しかし同時期には長距離輸送としてトラックが進出。鉄道での輸送需要は年々減少気味でありました。
そこで国鉄は漁港で獲れた魚を新鮮なうちに運び、市場の朝の競りに間に合わせるためにレサ10000系を開発。鮮魚を運ぶ貨車は既にレム5000形がありましたが、この貨車は空気バネ台車や電磁自動空気ブレーキ等の採用により従来より早い100km/hでの走行が可能になったのです。レサ10000系は全ての車両が香椎貨車区に所属。検査や運用も客車と同じものが組まれていました。
このレサ10000系を使用した鮮魚貨物列車を特急鮮魚貨物列車と呼ぶようになり、魚を腐らせないようダイヤもこの列車が最優先で組まれていました。そしてこの特急鮮魚貨物列車には2つ種類があり、幡生から築地市場で運行されていたのが「とびうお」号、そして博多港から大阪市場で運行されていたのが「ぎんりん」です。
「ぎんりん」は博多港駅でレサに新鮮な魚を積み博多臨港線を走行、香椎操車場にて長崎方面から来たレサと連結しそして朝の競りへ向けて大阪市場へ走っていきました。
「とびうお」「ぎんりん」も業績は上げていましたが、鮮魚貨物列車の衰退を止めることはできず専用貨車の廃止(コンテナ化)も進んだことから1986年に「とびうお」廃止。それと同時にレサ10000形も運用離脱し廃車が開始、同年度中に全て解体され形式消滅しました。その後「ぎんりん」もコンテナ車化や長崎から梅田に運行区間が変わるなどして生き残っていましたが1998年に廃止されました。
伝説の1000系甲種輸送
博多臨港線、実は1度だけ甲種輸送で使われたことがあります。
時は1980年、福岡市地下鉄1号線(現在の空港線)が開業する1年ほど前、待望の新車両1000系が完成。トップナンバーの01編成が近畿車輛から遥々船で博多港まで運ばれてきたのですが、その際に博多臨港線が使用されたのです。
博多臨港線博多港からDD51の牽引で甲種輸送され、長浜(福岡港駅辺り？)からトラックで姪浜まで輸送されました。なお博多臨港線を使用した甲種輸送を実施したのは01編成のみ。02編成以降は車両製造工場から旧筑肥線(博多〜姪浜)を経由して姪浜工場に運ばれました。
6日限定の幻の駅 福岡ボート前駅
博多臨港線にはもう一つ面白いものがあります。それが福岡ボート前駅です。
1989年8月3日に福岡競艇場及び「アジア太平洋博覧会」への来客に伴いJR貨物の香椎〜博多港の線路をJR九州が間借りして設置されましたが、6日後の8月9日に駅設置期間が終了し廃駅となりました。
たった6日間だけの営業に留まった当駅ですが、この駅に来ていた列車が非常に面白いのです。
そう、この博多ボート前行きの臨時列車、アクアエクスプレスとSL牽引の客車だったのです！！！
1989年当時、アクアエクスプレスはデビューしてまだ1年、さらにSLまで来ていたんですから本当にすごいことです。
臨港線の廃線跡を歩いてみよう
ここまで長々と歴史を解説しても正直あまり面白くないと思うので、実際に列車ざ走っていた場所を歩いてみましょう。
というわけでJR千早駅よりこんにちは。博多臨港線の本当の起点は香椎駅なのですが、香椎〜千早間は鹿児島本線と共用している上に今回は博多港〜福岡市場がメインなので千早駅からのスタートとさせて頂きます。
千早駅は普通列車、快速列車共に停まる主要駅。隣には西鉄貝塚線千早駅も併設されています。千早駅の隣には千早操車場(画像)が併設されており、福岡貨物ターミナル駅から鹿児島や鍋島に行く貨物列車はここで機回しをします(逆も同じ)。
香椎側を見てみましょう。左から上り本線、上り待避線、下り本線、下り待避線といった感じで鹿児島本線と博多臨港線は線路を共用する形となっています。
千早駅から1kmほど歩くと西鉄名島駅が見え、鹿児島本線と貝塚線の線路と立体交差しながら臨港線は海側にズレます。
多々良川橋梁を渡るとここで鹿児島本線と貝塚線とはお別れ。国道3号線とオーバーパスすると
福岡貨物ターミナル駅に到着。
このまま貨物タに並行して千鳥橋方面に進めば終端部分に付きますが臨港線は貨物タの途中から分岐していきます。
箱崎5丁目からドンキを経由しながら斜めに進み、箱崎九大前駅の交差点から国道3号線と並行するような形で進んでいきます。
箱崎四丁目や東区役所の交差点を経由しながら暫く歩くとゆめタウン博多に到着。ここが2代目の博多港駅の場所になります。
2代目の博多港駅から少し進み千代５丁目の交差点へ出て御笠川が見えてくるとここで国道3号線と別れ、橋を渡って石城町へと進んでいきます。
石城町へ出ると急カーブを曲がり川岸？のほうに進み警察署の横を通りながら進むと沖浜町に、そして初代博多港駅があった場所に到着します。
(1枚目の写真は博多港駅手前のほう)
一度石城町へ戻り西に少し進むと福岡国際会議場が見え、ここの大きな道路に並行するような形で真っ直ぐ築港本町を抜けていきます。
ちなみにここの道路、片側2車線の道路となっていますがかつて博多臨港線がこの道路の部分を走っておりその跡が転用されたものと思われます(築港本町のどこかにかつて線路があった証の標識があるようです)。
筑港本町の通りを抜けると不自然な工事中の道路があります。ここがかつて臨港線が走っていた場所なのです。
ここから臨港線は那珂川を渡り、長浜方面へ進んでいきますがなんと橋桁の跡がありました。
長浜地区に出てボートレース場の裏側を行くように進むとペラポート福岡に到着。ここがかつて福岡ボート前駅があった場所らしいです。
KBCを眺めながらさらに進むと長浜3丁目東の交差点に到着。かつて福岡港駅から分岐してここから那の津方面に線路が伸びていました。
先ほどの渡ると長浜3丁目に到着。ここが福岡港駅があった場所になります。今は駐車場と奥の倉庫に転用されてますね。
実はこの駐車場、歩道と若干段差があります。これも線路があった場所をそのまま駐車場に転用したのでしょうか…？
そして福岡港駅跡から少し進み曲がると福岡中央卸売市場に到着。ここが福岡市場駅の跡地です。かつて線路があった場所に道路が敷かれていますね。
これで引込線除く博多臨港線は終わりです。全行程で徒歩約10km、2時間半くらいかかりましたがただ事前調査不足でJRの境界杭や築港本町の標識など細かい跡については見つけることができなかったのが悔やまれます。しかし築港本町など明らかな線路跡は見てて面白いので興味のある方は是非やってみてください。
まとめ
いかがだったでしょうか？前回同様パッと思いついたネタだったのですがいかんせん当時の資料が少なすぎて各駅の貨物取扱いをまとめるのには非常に苦労しました。
福岡に限らずかつては臨港線は全国各地に存在しており、多くの貨物列車が行き交っていましたが貨物列車輸送の衰退により、現代に残る臨港線は昔に比べかなり少なくなってしまいました。しかし短い間でも各地の臨港線が街の発展を支えたのは間違いないと思っております。
皆さんも臨港線に限らず、自分の地元にはどのような鉄道がかつて走っていて、どう街を支えたのか改めて着目してみるのも面白いと思います。
この記事を書いた人
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ふぺです
月1で九州メインの記事を上げていければと思ってますので何卒...
icon @Bashamichi_mm04 様
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