荷棚のココは、“握”れます【17901MiniArticles】

長らくご無沙汰しておりました。17901と申します。

まずはじめに、普段電車を利用するときに荷棚の形状に(まで)気を配る鉄道ファンの方は、相当な少数派であるのは間違いないでしょう。まして鉄道を趣味としない方のうち、なおさら荷棚の形態を気にされる方は相当な少数派であることは想像に難くないでしょう。

このような現状があるにもかかわらず、なぜ荷棚をネタに記事を書くのか

それは、いざというときに荷棚のココに掴まってほしいからというのがひとつ、さらには、多くの方にここも“握”れるのだと意識してもらうことで、この不思議な棒の存在感を覚えてもらえるのではないかと考えたためです。「荷棚を握るって、一体どういうこと?」と思われた方も、私が申し上げていることにピンと来られた方も、どうか引き続きご覧くださいませ。


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“握”れるところは、ずばりココ

ここです。おわかりいただけましたか?

どの部分かわからなかった方のために、当該の部分を着色してみました。

そうです。ここです。サムネイルと全く同じ画像が出てきましたね。

普段電車に乗られる方であれば、実に当たり前の装備に思えて気にも留めてこなかった部分でしょう。これは、握り棒といい、荷棚ブラケットを延長する形で取り付けられています。

この握り棒は、扉間・座席前のつり革よりは高い位置に、扉前や扉間・枕木方向のつり革よりは低い位置に高さが設定されています。しかしこの絶妙な高さ設定が、握り棒存在感を薄いものにしてしまっていると感じてなりません。

例えば東急5000系のうち、画像の車両に関しては、扉間・車端部において2種類の高さのつり革が交互に設置されています。向かって左側の、標準高さのものはおよそ1630mm(床面からつり革下辺まで)、右側の一段低いものは1580mmと高さが設定されています。そんな中、握り棒の高さは1690mm1と、本当にどっちつかずな高さに設定されているのが現状です。

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“握”れる荷棚の発祥は?

荷棚を少し延長して握り棒を設置したこの形態(以後、握れる荷棚)は、国鉄63系電車が発祥だと言われています。63系電車は、戦中・戦後の逼迫していた輸送需要に対応するため、客用扉の数を史上初めて1両当たり4扉とした車両と言われていますが、このことは鉄道ファンの皆さんにとっては常識中の常識でしょうか。その一方で、先述の通り、握れる荷棚をもこの形式は初めて取り入れていたのでした。

Wikipediaより

63系電車(後年に製造時の形態に復元されたもの)特有の裸電球に板張りの座席など、当時の厳しい事情がうかがえるポイントはさておき、荷棚の先に握り棒がついているのが見て取れます。ご覧の通り扉横の手すりや扉前のスタンションポール、つり革を除けばほかに掴まるところがなく、また混雑も大変ひどいものだったであろう当時にとって、この握り棒はたいへんありがたいものであったのでないかとつくづく思います。

この握れる荷棚は、後続の73系電車においても引き続き採用されたほか、国鉄初の新性能電車であるモハ90系(101系)をはじめとして採用が続き、それ以降の国鉄の通勤・近郊型電車の内装を語るうえでは外せないパーツとなりました。

くろやっこ様より

こちらは、南武支線にてかつて活躍していた101系の晩年の車内です。荷棚ブラケットがつり革ブラケットも兼ねた仕様となっていますが、握れる荷棚は健在です。この車両は座席モケットと化粧板が交換され原型を留めていませんが、荷棚ブラケットやつり革の支持棒は原型のままだったのですね。

くろやっこ様より

日本で最も製造された電車である103系にも、ほぼ例外なく握れる荷棚があります。画像はこれらのうちJR化後にアコモ改造がなされたグループの車内を写したものです。座席モケットや床材、化粧板が交換されていますが、アコモ改造後も握れる荷棚は健在です。

現在の“握”れる荷棚

国鉄(→JR西日本)201系(左上)、国鉄(→JR東日本)205系(左中)、JR東日本209系1000番台(左下)

JR東日本E231系(右上)、JR東日本E233系8000番台(右中)、JR東日本E235系1000番台(右下)

国鉄分割民営化に二度の改元、時代という荒波にもまれながらも、握れる荷棚は現在も首都圏を中心に、全国で見ることができます。また採用例はJRだけにとどまらず、関東大手私鉄や各地の公営地下鉄車両などにも波及しており、本当は実になじみ深いものであるはずなのです。


しかしながら、これほどまでにポピュラーとなったはずの握れる荷棚が見られないことがあるというのです。いったいなぜなのでしょうか。

“握”れる荷棚が不毛の地

近鉄の一般車たち シリーズ21(上)、丸屋根車(中)、角屋根車(下)

ええ、お察しの通りです。関西です。

もちろんのこと、関西に握れる荷棚が一つもないわけではありません。しかし他地域と比べてみれば、かなり少ないように感じます。特に近鉄・阪神には、握れる荷棚をもつ車両が1両たりとも存在しません。その一方、京阪10000系まで、南海は現在に至るまで握れる荷棚の採用に積極的であるなど、各事業者で対応が異なっています。個人的には、京阪は単純に混雑対策としてそれを採用、南海に関しては、長年取引のあった東急車輛の影響をうけて採用を続けているものだと推測します。阪急では、9000系9000系の建造と同時期にリニューアルされた車両にて一時期、握れる荷棚を採用していましたが、それ以前やそれ以降では採用した形跡がなく、あまり傾向が読めません。

西武4000系(上)、西武40000系L/C車(中)、JR東日本E217系(下)

また全国的な傾向として、荷棚下がクロスシートであった場合には、握り棒はたいてい省略されます。たとえ関東の鉄道事業者であっても同様です。立席客向けの設備ゆえ、省略したところで特に問題がないと判断されたがゆえの対応でしょうか。

本来握り棒が来るであろう場所を、赤の点線で示してみました。

営団の荷棚、ちょっと変?

営団(→東京メトロ)9000系(上)、営団(東京メトロ→北陸鉄道)03系(中)、東京メトロ10000系(下)

最後に営団・東京メトロの車両の荷棚事情をご紹介して、この記事を締めくくります。

内装のクセの強さで他事業者の追随を許さない営団・東京メトロですが、握り棒の処理方法もやはり一風変わっています。上二つは荷棚ブラケットをカバーで隠したうえ、そのカバーに握り棒を接続しています。個人的には、実用性とデザイン性とを両立した上手いデザインだと感心しています。一番下は10000系で、デザインを担当されたAlexander Neumeister氏のセンスが光っています。こちらは天井まで伸びるスタンションポールに握り棒を接続した形態で、実にさりげない見てくれをしています。

クセの強さにおいての極めつけは、1000系の荷棚でしょうか。中京圏・関西圏のクロスシート車のような荷棚(荷棚先端にカバーが取り付けられている形態のこと・1000系は単にブラケットと一体成型である)に取ってつけたかのように、握り棒がつながっています。この形態、東京メトロ以外の事業者にも波及してほしいところです。

まさに東西文化の融合!

おわりに

前回の『【果てしない沼】東急5000系列の座席は何種類あるの?』の公開から実に3カ月もブランクを作ってしまいました。私17901の記事をお楽しみにされていた方々、本当にお待たせいたしました。とはいってもミニ版で分量は少ないですし、今回は特にまとまりのない記事となってしまいました。申し訳ございません。

ここだけのお話ですが、実は先日、ふりとれの内規の改正案が示されました。そこには「基本的に月一回はある程度の分量の記事を載せようね(意訳)」という記載があり、改正案が通ってしまった際の対応を考えあぐねてしまっているのが現状です。図書館などから多数資料を取り寄せて、それらとにらめっこしながら作る現在の私のスタイルとは、すこぶる相性が悪いのです。現実的に考えれば改正案はそのまま通ってしまうでしょうから、そうなれば今回みたいな短い記事を連投することになるでしょう。私には、勢いに身を任せていると分量が多くなりすぎてしまう節があるので、言いたいことをスパッと簡潔に書く練習が必要みたいです。

最後になりますが、今回の記事作成にあたって、お写真二枚をくろやっこ(@Kuroyakko_9685)様からお借りいたしました。ありがたいことに、私からの突然の依頼をご快諾くださったほか、労いのお言葉までいただいてしまいました。おかげさまで、ご覧の通り記事を一本書き上げることができました。本当にありがとうございました。

参考文献など

参考文献

  1. 今野 雅夫. 東京急行電鉄5000系の概要. 鉄道ピクトリアル = The railway pictorial. 53(12) (通号 740) 2003.12,p.42. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I6738197 ↩︎

画像

Mzc93000 – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=76103672による

くろやっこ(@Kuroyakko_9685)様による以下のツイート 

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その他の画像はすべて筆者撮影

更新履歴

  • 2024-11-16 CCライセンス付与
  • 2024-11-23 軽微な修正
  • 2024-11-24 公開開始

最後に(お願い)

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CCライセンス表示

荷棚のココは、“握”れます【17901MiniArticles】 © 2024 by 17901 is licensed under CC BY-ND 4.0 

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この記事を書いた人

17901
17901
はじめまして。17901と申します。ロングシートと通勤・近郊型電車が大好物です。
鉄道車両の内装(座席・照明・荷棚)をネタとし、車両の図面レベルまで分析を進めるような、ちょっとハイレベルな記事を書きたいなぁという願望があります。
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