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上野駅地平ホーム徹底解説

宇都宮線や常磐線での車掌による車内放送。上野駅の到着番線を案内する際に「高いホーム」「低いホーム」と、やや独特の表現をするのをご存じでしょうか。東京に馴れていない人には少し伝わりにくい言い回しかもしれません。上野駅の列車乗り場は「二階構造」になっています。仙台駅や東京駅、大阪駅などのような一般的なターミナル駅はホームが平面上に広がった構造をしていることが多いですが、上野駅は少し特殊な構造をしています。山手線や京浜東北線などの通勤電車のホームは2階の「高いホーム」ですが、始発の中距離電車や特急電車のホームはその直下にある「低いホーム」、いわゆる地平ホームが役割を担っています。今回はこの「地平ホーム」について考えます。

上野駅地平ホームの概要

地平ホームの構造

上野駅在来線番線は1番線から17番線が存在し、そのうち1~12番線が高架ホーム、13~17番線が地平ホームになっています。かつては20番線まで存在しましたが、東北新幹線の開業等によってホームは撤去され、17番線までになりました。

イメージ図からも分かるように、地平ホームから東京方面へ列車が出発することはできません。地平ホームはいわゆる「頭端式ホーム」となっているため、5線全てが上野止り列車上野始発列車に使用が限られています。

かつては16・17番線は常磐線特急列車の発着に使われており、特急券の検札を行う有人中間改札が設置されていましたが、常磐線特急列車にもチケットレス特急券サービスが導入されたことをきっかけにこの中間改札は廃止されています。

上野駅14・15番線からは東北・高崎線の始発列車が発車する。

地平ホームを使用する列車

「上野駅地平ホーム」といえば〝寝台特急発着の場〟というイメージが強く浸透しています。特に13番線はかつて、多くの寝台列車が出発していました。しかし、寝台特急が全廃した現在は地平ホームは東北・高崎線と常磐線の普通列車の発着がメインになっています。常磐線特急列車の地平ホーム発着もほぼ消滅し、高崎線特急列車の発着が残るのみとなっています。

東北・高崎線の普通列車(快速含む)は13~16番線からの発着が基本となります。常磐線の発着は16・17番線の発着となります。駅の案内上、16番線は東北・高崎線/常磐線兼用、17番線は常磐線専用としています。

地平ホームを発着する普通列車はかつて日中にも存在していましたが、現在は朝と夕夜のみ設定されています。14・15番線を使用する列車が最も多く、上野始発列車が増加する夜時間帯に16・17番線が使用されます。13番線を発着する定期列車は現在、20:50発の547M列車の1本のみとなっています。この列車は平日のみの設定のため、土休日の13番線発着列車は基本的にありません。回送列車を含め定期的に13番線に入線する列車はこの1本のみです。(※1)

高崎線特急列車は平日に12本、土休日に10本が地平ホームから発着します。2023年ダイヤ改正により、高崎線特急列車はE257系での運転に変わり、特急名も「草津・四万」「あかぎ」に改められました。

上野駅地平ホームの存在意義

2015年の上野東京ライン(東北縦貫線)開業により、上野駅の発着が基本だった東北・高崎線は、東海道線直通が基本となり、上野駅発着の普通列車は大幅に減少しました。さらに、地平ホームの看板だった寝台列車も臨時を除いて全てが廃止されてしまったことで、地平ホームのかつての活気は失われてしまいました。地平ホームの存在感は今ではすっかり薄れてしまい、「地平ホームは廃止されるのではないか」という声も上がっています。そんな地平ホームの「存在意義」は何なのでしょうか。

完結列車の発着の場

東北・高崎線の多くの列車は東海道線に直通します。しかしながら、それだけではラッシュアワーは不十分で、膨大な通勤客を捌くために「完結列車」を走らせる必要があります。つまり、東海道線非直通列車が必要なのです。しかしながら、直通列車だけで既に東京ー上野間は〝満杯〟になっています。東北・高崎線に「東京行」がほとんどないのは、東京駅がラッシュアワーの折り返し駅としては弱いからです。上野駅も高架ホームは同様です。

しかし、地平ホームはそうではありません。東北・高崎線としては計4線も使用できる行き止りホームの地平ホームは完結列車の発着の場として絶好の環境です。後続列車に追われない地平ホームは長時間停車することができ、始発列車を上手く組み込むために必要不可欠な存在なのです。

臨時列車の発着の場

地平ホームは臨時列車にとっても必要不可欠な存在となっています。そもそも、臨時列車には行楽シーズンなどに増加する観光客を運ぶ多客臨時列車(多客臨)、修学旅行の学生を運ぶ集約団体輸送臨時列車(集約臨)、旅行ツアー客が団体で貸切る団体臨時列車(団臨)などがあります。東京周辺では、定期列車だけでダイヤが過密状態となっています。臨時列車はその過密ダイヤの合間を縫って運転されます。集約臨や団臨では、乗客の人数確認を行ったり、そもそも乗車自体に時間がかかります。こんな列車を続々と定期列車が入線するようなホームで発着させた場合、後続列車の遅延が拡大することは容易に想像できるでしょう。そんなときに、全5線を持ち、後続列車が詰まることがない地平ホームは絶好の存在になります。発車時刻さえ遵守すれば、長時間停車も可能なのです。

上野駅13番線から発車する団体列車。

先述のとおり、上野駅地平ホームといえば「寝台列車」でした。あけぼの、北斗星、カシオペア等々…晩年まで残った寝台列車は大変な人気があり、ラストランには非常に多くの観衆が集まり今では考えられないほどに地平ホームは賑わいをみせました。このうち、カシオペア号だけは臨時列車(ツアー商品)として現在でも頻繁に運転されています。この団体列車「カシオペア紀行」は13番線から発車し、全国唯一の推進運転を見ることができます。

ダイヤ乱れの運行調整

現在、地平ホームが担う最大の役割は「ダイヤ乱れ時」に発揮されます。東北・高崎線、常磐線、東海道線、多数の路線が直通しあって繋がっている現在の運行形態では一箇所で遅延等が発生すると全体に遅延が拡大し得る状態にあります。このような大幅なダイヤ乱れの際にはしばしば上野ー東京間を運休させ、各線の直通を解除します。

上野ー東京間の運転が取りやめになった場合のイメージ

上野ー東京間を運休することで東海道線は東京折り返し、東北・高崎/常磐線は上野折り返しとなります。高架ホームでも折り返しを行いますが、東北・高崎線が折り返しに使用できるホームは5~8番線の計4線、常磐線が折り返しに使用できるのは9~12番線の計4線となります。東海道線直通が大半を占める東北・高崎線からの列車は4線では折り返し設備としてのホームが足りない、捌ききれないという状況に陥るおそれがあります。そこで、地平ホームを併用することにより、折り返し効率を向上させたり、列車の間隔調整を行うことができるようになるのです。(※2)上の図では、細線で表記された線を辿ると地平ホームに入線できるようになっています。地平ホームは言い換えると、高架ホームの「受け皿」的存在といえるかもしれません。

地平ホームと井堀信号場

鶯谷駅を過ぎたところにあるカーブの先で地平ホームへと延びる線路は下へ進んでいきます。ところが、地平ホーム行の線路と高架ホーム行の線路はそれよりも手前から別れるようになっています。

旅客は気づかずに通り過ごしてしまいますが、上野駅と尾久駅の間には「井堀信号場」という信号場があります。井堀信号場は厳密には法律で定められる信号所とは認められておらず尾久駅の扱いを受けますが、運転上欠かせない地点となっています。その理由は、この井堀信号場こそが「地平ホームと高架ホームを分けるポイント」だからです。

上野方面に運転する列車が尾久駅を出発すると、もう一つの出発信号機「井堀第二」によって、地平ホーム、高架ホームへ入線する列車をそれぞれ分けます。逆に、上野を出発した地平ホーム発北行列車と高架ホーム発北行列車が合流するポイントが井堀第二になります。この井堀第二信号では、直進すると地平ホーム、左側の線路に入線すると高架ホームに繋がるようになっています。(※3)今では少なくなった地平ホーム発着列車が「直進」となっているのは、かつて地平ホームが主要ホームとして扱われていた時代の名残なのでしょう。

あとがき

さて今回は、著者が「ふりとれ」独自サイト化後、初めて投稿する記事となりました。最初の記事の話題は何にしようかと悩んでいました。子どもの頃の地平ホームは今よりも賑やかだった、そんな記憶があります。暗くて小汚いホーム、という印象は今と同じですが、そんな地平ホームの雰囲気が昔も今も大好きでした。そんな地平ホームについて解説記事をかいてみようと思い立ち、今回執筆させていただきました。

「地平ホーム」と検索すると「廃止」というキーワードがちらほら散見されます。確かに、日中の様子からは本当に必要なの?と思ってしまうほど閑散としています。それでも、れっきとした役割のあるこの地平ホームがこれからも残って欲しい、上野駅の歴史ある光景がこれからも残ってくれればと願っています。

Credit/注釈

写真4点ー全て著者撮影/イメージ図2点ー全て著者独自によるもの。

※1…2023年ダイヤ改正までは13番線止まりとなる列車が存在したが、ダイヤ改正によって13番線使用列車は、同番線を始発とする547M列車のみとなった。なお、2024年ダイヤ改正によって547M列車は20:50発に改められた。

※2…上野東京ライン運休時の運行形態にはいくつかのパターンがある。そのうちのひとつに、東海道線からの直通列車を始発駅~上野駅間で区間運休とし、地平ホーム始発とするものである。この列車では「E列番」であるにも関わらず完結列車となる珍しい特徴がある。この場合、充当予定の編成とは別の編成(尾久留置)の代走をかけることがある。

※3…尾久駅出発の南行列車から見ると、信号表示は「高一場」「地一場」となっている。尾久駅出発の北行列車から見ると、「高一出」「地一出」となっている。列車遅延時、東北・高崎線の北行列車では、高架ホーム発列車と地平ホーム発列車を同時発車させ、井堀信号場で高架ホーム発列車を優先して先行させる。

この記事を書いた人

とうほくらいん
とうほくらいん東北本線を愛する大学生
東北本線にまつわる記事を中心に執筆しています。深い記事を少しずつ、皆様にとって新たな東北本線との出会いがありますように...

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