
ご無沙汰してます。ふぺです。
2022年についに開業した西九州新幹線。日々多くの利用者がいるこの路線ですが、実は長崎県北部の都市「佐世保」を経由する計画があったことをご存知でしょうか?
この計画は一時期何個かあった西九州新幹線のルートの最有力候補として挙げられていましたが、いつしか消え去られてしまっていました。ではなぜこの佐世保ルートが計画されたのでしょうか?この沿線を走る特急「みどり」との関係を踏まえつつ解説していこうと思います。
特急みどりについて

特急みどりとはJR九州が運行する特急列車で、福岡県の博多駅と長崎県の佐世保駅を結んでいます。
この特急みどりは福岡都市圏⇄佐世保のビジネス需要を支えているのはもちろん、朝夕には佐賀方面から通勤する人が多く利用します。また夏季の長期休暇シーズンや沿線の有田町で有田陶器市が開催される時は「九十九島みどり」や「有田陶器市みどり」といった臨時列車が多く走ります。

停車駅はこのようになっており、大多数の便がリレーかもめが通過する二日市に停車するほか、上下1本吉野ヶ里公園に停車する便やリレーかもめの役割を担い武雄温泉で西九州新幹線に接続する便もあります。
使用されているのは783系CM編成と885系SM編成の2つで、臨時列車ではまれに787系BM編成が入ります。
2022年に開業した「西九州新幹線」

2022年9月23日、それまで博多〜長崎を結んでいた特急かもめに代わる形で西九州新幹線が部分開業。これにより福岡⇄長崎の輸送は大きく変化を遂げました。
またこれに合わせて特急みどりを含む長崎本線特急も大きく姿を変え、博多〜長崎を結んでいた「特急かもめ」は「特急リレーかもめ」へ姿を変えて博多〜武雄温泉(新幹線連絡駅)を結ぶ特急になり、「特急みどり」「特急ハウステンボス」は「特急リレーかもめ」と号数が共有化され、新たに博多〜肥前鹿島を結ぶ「特急かささぎ」も新設されました。
特急かささぎ105号 | 肥前鹿島 | 13時16分発 |
特急みどり31号 | 佐世保 | 13時37分発 |
特急ハウステンボス31号 | ハウステンボス | 13時37分発 |
特急リレーかもめ33号 | 武雄温泉(長崎) | 13時54分発 |
また並行在来線である長崎本線が有明海沿いを走っていたのに対し、西九州新幹線は反対側の大村湾沿いを走るルートになっています。これは長崎本線が“福岡・佐賀〜長崎のアクセス路線”で、対する大村線は“長崎県内の地域輸送を支える路線”であることが強く関係しており、本来長崎本線を通っていた「かもめ」の利用者が西九州新幹線に移行することが考慮された結果、大村線ではなく長崎本線が並行在来線に指定されました。
掻き消された”西九州新幹線 佐世保ルート”

そんな西九州新幹線ですが、かつて長崎県北部の都市「佐世保」を経由するルートがありました。
佐世保は長崎県北部の都市で、九十九島やハウステンボスといった有名観光地が多いところで知られています。
また昔から海との関わりが強い街とも知られており、明治時代から旧海軍の軍港として発展していきました。この軍港として栄えた経緯から外国との関わりも強く、佐世保港には米軍の基地が設置されているほか、アメリカ海軍の関係者から教えてもらったレシピを元に「佐世保バーガー」がつくられ、佐世保市の代表的なソウルフードとして親しまれるようになっています。
話を戻しましょう。この西九州新幹線佐世保ルートは現在の短絡ルートと違い、大村線・佐世保線に並行して佐世保(早岐駅)を経由しながら武雄温泉までを結ぶ予定のルートで、後述の”とある動き”もあり当初の計画ではこの佐世保ルートが1番有力であるとされていました。
しかし佐世保ルートの場合では現在の短絡ルートに比べて所要時間が大きく増大し、西九州新幹線の本来の目的である「福岡都市圏〜長崎の速達化」が果たせなくなってしまうことや、JRが西九州新幹線を佐世保経由で建設した場合「年間102億円の赤字となる」と発表し、ルートが再検討された点から、1991年に現在の短絡ルートでの建設が決定されました。
この決定は佐世保市を含む県北地域の不満を買い、県庁での座り込み活動といった多くの抗議運動が行われましたが、当時の佐賀県や長崎県からの圧力もあり、結果として佐世保市は新幹線を諦めることになりました。
なぜ佐世保ルートは計画された?

この西九州新幹線佐世保ルートが計画されたのにはとある背景がありました。
時は今から47年前の1974年。当時の青森県沖太平洋上では原子力船「むつ」が出力実験を行っていたのですが、この試験中に放射線の漏れが発生。このトラブルをマスコミが大々的に報道したことにより「むつ」が所属する青森県の大湊定係港周辺の住民は「むつ」の安全性を疑うようになり、「むつ」の帰港を拒否しました。
困り果てた「むつ」でしたが、佐世保市が「むつ」の受け入れることを表明。しかし受け入れの条件として「西九州新幹線の建設」を出し、新幹線の工事着工が北海道新幹線や北陸新幹線といった他路線と遅れを取らないようにする約束を政府と国鉄の間で交わしました。西九州新幹線が当初「佐世保を通る前提」で計画されていたのはこれが理由です。

こうして西九州新幹線の着工に1番貢献したにも関わらず、”赤字が見込まれる”を理由に佐世保は新幹線に見捨てられてしまう結果となってしまったのです。
余った885系と佐世保線高速化
佐世保ルートではなく短絡ルートでの建設が決定されて西九州新幹線の工事が進む一方、とある問題がJRを悩ませていました。それが「かもめ」で使用されている車両の今後です。
当時の「かもめ」には885系と787系の2種類の車両が使用されていましたが、西九州新幹線が開業すると武雄温泉まで運転区間が短縮されるため、何編成か余剰が出てしまいます。このうち787系は編成組み換えが行われたのち西九州新幹線への連絡特急「リレーかもめ」へ転用されましたが、西九州新幹線で活躍するN700Sより定員が少ない885系は「リレーかもめ」へ転用するのは難しい状態でした。

ここで発案されたのが佐世保線特急「みどり」への885系転用。振り子車両でスピードも出しやすい885系を「みどり」に転用すれば佐世保線のスピードアップが図れるうえ、新幹線の来る計画がなくなった佐世保市にも博多までの所要時間が短くなるというメリットが生まれます。
この885系「みどり」の走行性能を佐世保線内でも発揮できるようにするため、2019年度より14億4000万円を投じて佐世保線の高速化事業を開始。有田〜佐世保の枕木やレールを交換など、885系が走れるように改良がなされ、2022年9月23日のダイヤ改正によりそれまでの787系に代わって885系が「みどり」に投入されるようになりました。
佐世保方面 | |
みどり23号 | 博多(11:37発)⇨佐世保(13:26着) |
みどり(リレーかもめ)43号 | 博多(16:16発)⇨佐世保(18:09着) |
みどり59号 | 博多(20:32発)⇨佐世保(22:19着) |
みどり63号 | 博多(21:32発)⇨佐世保(23:18着) |
みどり67号 | 博多(22:35発)⇨佐世保(00:09着) |
博多方面 | |
みどり6号 | 佐世保(07:18発)⇨博多(09:02着) |
みどり10号 | 佐世保(08:06発)⇨博多(09:50着) |
みどり16号 | 佐世保(09:05発)⇨博多(10:49着) |
みどり36号 | 佐世保(13:45発)⇨博多(15:28着) |
みどり(リレーかもめ)56号 | 佐世保(19:11発)⇨博多(20:55着) |
885系は約10本の「みどり」に投入され、これによって佐世保〜博多の平均所要時間は2分短縮されたものの、武雄温泉〜佐世保の所要時間は従来より2分増加してしまう結果となってしまいました。これは885系「みどり」の本数が少ないことや単線区間での列車交換によるタイムロスなどさまざまな原因があると言われていますが、この影響により佐世保市民は「事業の効果が感じられない」と不満が爆発している状態とはっています。
これからの「特急みどり」と佐世保市

まだ当分先とはいえ、西九州新幹線はいずれ佐賀・新鳥栖方面へ延伸して九州新幹線に接続する計画があります。この延伸が完了した場合、特急みどりの運行区間の大部分である武雄温泉〜博多は完全に平行在来線となってしまい、新幹線を使ってほしいJRにとっては「いらない子」になってしまいます。そのため順当に考えると特急みどりは西九州新幹線延伸開業のタイミングで博多直通便を廃止し、新幹線接続駅である武雄温泉から佐世保を結ぶ特急列車になるように思えます。
しかしこの程度の区間の運行であればわざわざ特急を運行する必要などなく、北海道の函館エリアで運行されている「快速はこだてライナー」と同じように快速列車に置き換えられる可能性が高いでしょう。
九州の首都的な立場を持つ「福岡」へ1本で行けなくなってしまうという事実は佐世保市とってかなり痛手であり、人口や街の活気が薄れていくのは目に見えています。またこの特急みどりが属する「長崎本線特急」の廃止は長崎県の隣の佐賀県も非常に強く反対しており、鹿島や佐賀といった各地から特急列車で福岡都市圏へ通勤する人が流出してしまえば、佐賀県のベッドタウンとしての役割は薄れ、人口は大幅に減少してしまうでしょう。

このため佐世保や佐賀方面からからの需要を確保するために「特急みどり」を新幹線延伸後も残すという案も浮上していますが、かつての「有明」のように、平行在来線区間に特急を残したところでも新幹線や競合私鉄に利用者が移ってしまい、結果廃止になってしまう可能性があります。
しかし西九州新幹線の通る佐賀県が「特急列車の運行継続」を強く訴え続けていることや佐世保市の関係からも、この「みどり」が今後の西九州新幹線延伸に関するキーになる予感がします。
おわりに
いかがだったでしょうか?
西九州新幹線着工の裏で佐世保市が大きく貢献していたことについて驚かれた方も一定数いらっしゃると思われます。この西九州新幹線の延伸計画と「みどり」の今後、今の段階ではまだまだ先は読めない状況が続きますが、どうか佐世保市や佐賀県含む沿線自治体が納得できる結果になることを祈るばかりです。

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よく奇行に走ります
icon @Bashamichi_mm04
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