「しもうさ号」の実態と将来について考える

「しもうさ号」という列車をご存知でしょうか。名前からして優等列車のような雰囲気を感じますが、その実態は「普通列車」。普通列車ではありながら愛称が付けられており、明確な路線名がない列車です。今回はそんな謎の普通列車「しもうさ号」について特集します。

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「しもうさ号」とは

しもうさ号の運行形態

しもうさ号は大宮駅から新習志野・海浜幕張駅を結ぶ直通サービス列車の愛称です。大宮駅を出ると、東北本線・武蔵野線を経由し、京葉線へと直通していくような運行形態となっています。

しもうさ号は毎日3往復運転していますが、扱いは未だ「臨時列車」となっており、JR東日本は「毎日運転の臨時列車」として案内されています。「毎日運転」=「定期列車」ではダメなのでしょうか。この辺りは後ほど解説することにしましょう。

しもうさ号は、大宮駅を出ると北浦和駅手前まで東北本線(客)と並走します。線路の位置は、上下線の湘南新宿ラインの間に挟まれる形で走行します。北浦和駅手前でトンネルへ入り、武蔵野貨物線大宮支線の区間を走行します。しばらく大宮支線を走行すると、別所信号場に差し掛かります。この別所信号場は武蔵野貨物線の分岐点となる部分かつデルタ線を管理する中枢の部分になります。しもうさ号はここで西浦和支線へと進み、武蔵浦和駅手前で本来の武蔵野線に合流します。

図はイメージ。縮尺は実際と異なり、埼京線や新幹線等は省略している。

しもうさ号=埼京線?

しもうさ号には明確な路線名がないと先述しました。強いて言えば、ほとんどの区間は「武蔵野線」ですが、別所信号場付近を何線と扱うかは難しい問題です。「貨物線西浦和支線経由」などとは旅客に案内できないため、大宮駅などでは敢えて路線名を表記せず、「しもうさ号」として案内しています。

JR東日本アプリで「しもうさ号」のルートを検索してみると、路線記号は「JA」と表記されています。「JA」が表す路線は埼京線。しかし、しもうさ号と埼京線は武蔵浦和の手前で一度交差するだけで、始発駅の大宮駅でも発車するホームは地上と地下、全くと言っていいほど異なる存在です。

しかし、区間だけでみればどうでしょう。しもうさ号も埼京線も「大宮ー武蔵浦和」の区間でいえば一緒です。結論からいえば、しもうさ号の大宮ー武蔵浦和間は「埼京線扱い」となります。JR東日本アプリはこの点正確で、「埼京線を経由したことにする」というしもうさ号の定義を反映しています。

どうしてこんなにややこしいことになっているのでしょうか。それは、運賃計算上の都合に原因があります。一般的に運賃計算は路線の営業キロ数を用いて行います。しかし、JR東日本では大宮支線の営業キロ数を運賃計算に使用しておらず、さらに西浦和支線には営業キロ数が存在しません(民営化と同時に廃止)。このままではしもうさ号の運賃計算ができないことになってしまいます。そこで、大宮駅から武蔵浦和駅の区間では、埼京線を利用したことにして運賃を計算し、南浦和までの区間は京浜東北線を利用したことにして運賃計算を行うことにしているのです。

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しもうさ号の目的

しもうさ号と新幹線の関係性

しもうさ号は2010年12月4日に運行を開始した比較的新しい路線です。2010年12月4日といえば、東北新幹線が新青森駅まで延伸開業した日です。これは偶然なのでしょうか。

しもうさ号が生まれた背景には「新幹線」の存在があると考えられています。しもうさ号の目的、「新幹線接続列車」としての役割です。一日3往復と少ないながらも、朝夕の東北新幹線「はやて号」や上越新幹線「Maxとき号」など、特に需要の高い新幹線との接続が上手くいくように設定されていました。しもうさ号が大宮駅に到着するホームは11番線、最も新幹線乗り場へのアプローチが短いホームです。

武蔵野線の越谷エリアは、新幹線停車駅への利便性が好ましくありません。東京駅へは武蔵野・京葉線で行けますが、やや遠いうえ、東京駅での乗換えはしやすいとは言えません。一方、大宮駅は距離が近いものの、乗り換えが必要なため、利便性は高くありません。このような点で、しもうさ号の「乗り換えなしで大宮へ行ける」というメリットはかなり大きそうです。

なぜ「毎日運転の臨時列車」なのか

ここで、冒頭に述べた「毎日運転の臨時列車」について詳しくみていきましょう。これは「定期列車」ではダメなのでしょうか。「定期列車」と「臨時列車」では大きく違う点があるのです。

「定期列車」は〝ダイヤ改正まで原則廃止できない〟ことになっています。定期列車は国土交通省に届出を提出しており、簡単に廃止することはできません。しかし、「臨時列車」の場合はそうではなく、利用状況に応じて柔軟に廃止することができます。「毎日運転の臨時列車」は〝様子見〟といったところでしょう。

ちなみに、もう一つの直通サービス列車「むさしの号」は同じく大宮を出て、八王子へと行く列車ですが、こちらは2010年に「定期列車」となっています。

しもうさ号をもっと詳しく!

列車番号のヒミツ

しもうさ号では、ほとんどの区間で列車番号の末尾に「」を冠して運行しています。列車番号に「E」が付いているものは「電車ダイヤ」と呼ばれ、採時する駅もあれば、非採時の駅もあります。いわゆる〝E電〟として運行がなされているもので、海浜幕張・新習志野~武蔵浦和間はE列車番号で運行をしています。

一方で、大宮ー武蔵浦和間においては、列車番号が変わります。列車番号には「」がつくものになります。武蔵浦和以北では、東北本線へと入ってゆくため、「E電ダイヤ」ではなく、「列車ダイヤ」で運転することになります。列車ダイヤでの運転では、全駅が採時駅となります。

同じ「しもうさ号」だが、左は南船橋駅、右は大宮駅で撮影されたもの。列車番号の英字に注目。

ところで、2023年のダイヤ改正からしもうさ号の列車番号に「小変化」が起こったのをご存知でしょうか。60E/61Eとして運転していた列車が、02E/03Eに変わったようです。

大宮からの回送

大宮に到着したしもうさ号は、また大宮始発として折り返し運転となります。折り返し始発となるのは3番線になりますが、大宮駅構内で転線することはできません。すぐに折り返す場合には、回送線に入ったのち、東大宮センター(東大宮操車場)の着発線で折り返します。時間のある場合には、東大宮操車場内で留置します。

東大宮操車場から大宮駅3番線に回送される際には、東武野田線と並ぶタイミングがあります。どちらも船橋方面へ向かう列車ですが、進む方向は正反対です。

使用車両

現在、しもうさ号で運用される車両は2形式3パターンです。これらは全て共通運用となっています。かつて205系が運用されていた際には、比較的209系のほうがしもうさ号に入りやすいと言われていましたが、現在は特別な傾向はありません。

209系500代

2010年12月に京葉線で運用されていた209系を8両編成化し、武蔵野線色に変更しました。M71・M72・M73編成は2010年のむさしの号定期列車化としもうさ号の新設に合わせて転用し、しもうさ号での運転を開始しました。205系よりも若干しもうさ号の運用に入りやすいと言われていましたが、実際のところは不明です。

M71編成からM77編成までと、M81編成からM84編成までの全11編成が京葉車両センターに所属しています。

E231系0代

全33本が京葉車両センターに所属しています。旧型電車205系の置き換えのため、三鷹から転用してきた編成がほとんどです。MU22編成は、上野東京ライン開業時に運用が増えるため、常磐快速線用として三鷹から松戸へ転用しました。その後、武蔵野線205系置き換えのために松戸から京葉車両センターに転属となっています。そのため、東京方に電気連結器を装備したままになっている特徴的な編成です。

E231系900代

1998年にE231系の試作車として製造され、当初は209系950代と区分されていましたが、E231系0代の登場後はE231系に形式変更し、900代に区分されました。三鷹車両センターに配置され、B901編成として運転されていましたが、他の0代と同様に武蔵野線に転用され、MU1編成を名乗っています。

205系が全て置き換わった現在では、武蔵野線で最も古い車両は1998年製のMU1編成です。

しもうさ号の〝将来〟

しもうさ号は今後どのような道をたどっていくのでしょうか。しもうさ号の最大の役目は「東京メガループの利便性向上」です。運転本数は3往復/日と少ないものの、ラッシュ時の武蔵野線東側各駅の大宮駅アクセス向上には確実に寄与しているでしょう。特に夕方の便では、始発駅からかなりの乗客が利用している光景も見られ、需要もある程度高いものであると推測ができるでしょう。

しもうさ号の伸びしろ、それはやはり「毎時運転」と「定期列車化」です。これから更に求められるしもうさ号のニーズは「新幹線アクセス列車」としての役目だと考えています。今後、新幹線網の拡大はいよいよ終盤、「北海道新幹線延伸」と「北陸新幹線延伸」です。どちらも実現すれば格段に新幹線の需要が高まることが予想されます。新幹線接続列車としての素質を備えたしもうさ号がさらに進化するタイミングはこの新幹線延伸ではないでしょうか。

それらが実現する頃、武蔵野線には新たな車両が走っていることでしょう。現在の車両での「しもうさ号」は少し珍しい列車、のイメージであり続けるかもしれませんね。

おわりに

「毎日運転の臨時列車」であるしもうさ号。簡単に廃止できる「臨時列車」の扱いではありますが、しもうさ号が廃止されることはまずないでしょう。主要な首都圏の路線を敢えて避け、貨物線も使いながら首都圏を大きく囲むような「東京メガループ」の中枢を担う、しもうさ号。運行開始からまだ14年、大きな伸びしろを持つしもうさ号の今後の活躍に期待したいところです。

写真提供ありがとうございました!

今回の記事では、しもうさ号や武蔵野線を愛する方々に沢山のお写真をご提供いただきました。貴重なお写真のご提供ありがとうございました。

この記事を書いた人

とうほくらいん
とうほくらいん東北本線を愛する大学生
東北本線にまつわる記事を中心に執筆しています。深い記事を少しずつ、皆様にとって新たな東北本線との出会いがありますように...

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