
はしがき
どうも、十数年ぶりの喉風邪で数日寝込んでいたまもうなです。
皆さんは、「神奈川県央地域の未成線・計画線」と言われると何を思い浮かべるでしょうか?厚木市都市モノレール?それとも、京王相模原線の城山延伸計画を思い浮かべる方もいるでしょう。
そんな県央地域ですが、京王相模原線の反対側、小田急多摩線には、「相模線の上溝駅まで延伸計画」が存在します。 今回は、そんな「小田急多摩線の延伸」に関するお話です。
この記事を3行に要約
時間のない人向けに、Google Geminiに3行にまとめてもらいました。
小田急多摩線を相模原方面へ延伸する計画が検討されています。
実現すれば都心へのアクセスが向上しますが、採算性などが課題となっています。
この計画では、町田市内駅、相模原駅、上溝駅の3つの新駅が構想されています。
小田急多摩線とは?

小田急多摩線を知らない方向けに、簡単に小田急多摩線について紹介しておきましょう。
小田急多摩線は、新百合ヶ丘駅(神奈川県川崎市麻生区)から唐木田駅(東京都多摩市)までの10.6kmを結ぶ鉄道路線で、1974年7月1日に開業しています。同時期に開業している京王相模原線とともに、多摩ニュータウンと都心を結ぶ鉄道路線としての役割を担っていましたが、開業から30年ほどは新百合ヶ丘駅での乗り換えが不便であったため利用者が低迷していました。
2025年のダイヤ改正において、休止されていた東京メトロ千代田線との直通運転が再開され、多摩ニュータウン地域から大手町方面や千葉県まで1本で結ばれています。

多摩線の延伸計画

そんな「多摩ニュータウン鉄道」として建設された小田急多摩線ですが、その先の延伸に関して30年ほど前より計画があり、近年、それが大きく前進に向かおうとしています。
まずは、延伸についての大まかな内容について読んでみましょう:
多摩ニュータウンの開発とともに整備された小田急多摩線は、唐木田駅を終端とする全⻑10.6km(新百合ヶ丘駅〜唐⽊⽥駅)の路線である。
町田市、相模原市をはじめとする地元自治体は、都市化の著しい進展を背景として、増加する都心方面等への通勤・通学需要への対応や、周辺地域における望ましい都市構造形成のため、同線のJR横浜線及び相模線方面、さらには愛川・厚木方面への延伸を求めてきた。
同線について、昭和60年(1985年)の運輸政策審議会答申第7号では「唐木田から横浜線方面について、今後、新設を検討すべき方向」として、平成12年(2000年)の運輸政策審議会答申第18号では「唐木田から横浜線・相模線方面への延伸について、今後、整備について検討すべき路線」として位置づけられた。
平成18年(2006年)には、在⽇⽶軍再編協議において、JR横浜線相模原駅の北側に位置する相模総合補給廠の一部返還が基本合意され、これを契機として、町田市と相模原市では、同年以降、延伸の実現に向けた具体的な検討を、関係機関の協⼒を得ながら共同で⾏ってきた。さらに平成26年(2014年)に国へ一部返還されたことによって、相模原駅の導入空間確保に⽬途が⽴ち、延伸の実現に向けて⼤きく前進することとなった。
平成28年(2016年)4月の交通政策審議会答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり⽅について」では、同線の延伸(唐⽊⽥〜相模原〜上溝)が「東京圏の都市鉄道が目指すべき姿を実現する上で意義のあるプロジェクト」の一つとされた。
–小田急多摩線延伸に関する関係者会議調査のまとめ(町田市・相模原市)より転載
より、「町田市の鉄道空白地帯の一部解消」と「相模原、上溝から新宿への所要時間短縮」という目的が見えてきます。
新設される「3駅」

この延伸計画では、以下の3駅を設置することを「前提」として計画が進んでいます。
- 町田市内新駅(神奈川中央交通 「小山田」バス停付近を想定)
- 相模原駅(相模原市中央区にあるJR横浜線の「相模原駅」。南区の「小田急相模原駅」とは別物。)
- 上溝駅
①:町田市内新駅

※便宜上、これ以降「小山田駅」と称します。
予定地:東京都町田市上小山田町
乗り換え路線:??
予想乗降客数:10千人/日
延伸線の中で唯一町田市に設けられる予定となっている駅です。 神奈川中央交通の「小山田」バス停付近に設置される予定で、付近には小山田桜台団地や、桜美林大学町田キャンパスが立地しています。
現在の町田市は、市の外縁上に鉄道路線が走っており、市の中央部は大きな鉄道空白地帯となっています。そのため、現状では小山田桜台団地から新宿駅まで出るためには以下のような経路を取る必要があります。
- 【小山田桜台 バス停】→神奈中バス(30分程度)→【町田バスセンター】→小田急小田原線(30~40分程度)→【新宿駅】
- 【小山田桜台 バス停】→町田市 小型バス(20分程度)→【唐木田駅】→小田急多摩線・小田原線(30~40分程度)→【新宿駅】
いずれの経路の場合でも1時間近くかかる他、バスを利用することにより運賃も高額になります。
実際、多摩線が延伸開業した場合、現状より210円安くなると試算されています。

多摩モノレール延伸計画

小山田地域の新線計画といえば、小田急線だけではありません。町田駅までの延伸が計画されている多摩モノレールがあります。

多摩モノレールのルートは、多摩センター駅→【町田市立陸上競技場(天空の城町田GIONスタジアム)付近】→【日本大学第三高校付近】→【小山田桜台団地付近】→【木曽付近】→【町田市民病院付近】→【町田高校付近】→【町田駅】となっています。2024年にはモノレールが通るルートである「新町田街道」(町田3・3・36号相原鶴間線)が町田市旭町(町田市民病院の前)まで開通しており、こちらの計画は多摩線のものよりかなり進んでいる印象を受けます。
さて、この多摩モノレール延伸ですが、小山田桜台団地や桜美林学園を結ぶために少々迂回するような形になっているのがお分かりいただけるでしょうか。これを、小田急多摩線の延伸ルートと重ねてみましょう。

青色が小田急多摩線、オレンジ色が多摩モノレールです。
町田市の試算では、【小山田桜台団地】→【町田駅】の所要時間が18分とされており、鉄道空白地帯の解消という主目的に対しては、こちらのモノレール延伸線でいいのではないかという印象を受けます。
しかし、モノレールが通ったと仮定しても新宿駅まで50分程度かかってしまうこと、またモノレールの運賃が小田急線よりも相対的に高くなることを考慮に入れると「両方」実現させることで小山田地域のさらなる活性化につながるのではないかと考えます。
②相模原駅

予定地:神奈川県相模原市中央区相模原一丁目
乗り換え路線:JR横浜線
予想乗降客数:41.2千人/日
相模原市南区にある「小田急相模原駅」とこの「国鉄相模原駅」の関係はまた別の機会に…
JR横浜線の「相模原駅」の地下に設置される予定で、付近には住宅街が広がっています。…南側は。
広大な空き地「相模総合補給廠」

相模原駅の北側、地図で言うと赤く彩られているところには、在日米軍の相模総合補給廠が矢部駅付近まで広がっています。その補給廠の西側17ヘクタールが2014年に返還され、その後ろ側にある35ヘクタールも米軍との共同使用が合意されています。 そこに、「小田急線を通そう」というわけです。

この返還地の再開発により、2033年を目標としている小田急多摩線延伸開業時までに就業人口8千人、夜間人口3千人が定着すると見込まれています。
③上溝駅

予定地:神奈川県相模原市中央区上溝七丁目
乗り換え路線:JR相模線
予想乗降客数:29.1千人/日
JR相模線「上溝駅」の地下に設けられる予定で、付近には住宅街が広がっています。
今回の延伸の終点。JR相模線と接続し、橋本まで出て乗り換えなければいけなかったものの利便性向上を図ります。
🔍上溝 何がある
上溝駅周辺にお住まいの方本当に申し訳ありません…
上溝地区は江戸時代から商業の中心として栄え、市政施行の昭和29年まで町役場が置かれるなど相模原の政治、経済の中心地でした。
上溝地区|相模原市
地区東部に広がる横山丘陵の豊かな緑と、鳩川、姥川、道保川の3つの河川は、上溝地区の豊かな自然の象徴です。とりわけ、道保川の清流と横山丘陵の緑地からなる道保川公園では季節になると蛍が舞い、都市の中で自然とふれあうことのできる貴重な空間となっています。
なるほど、以前中心地だったものが相模原駅に吸われていったっていう感覚か。(言い方)
「小田急多摩線延伸・上溝駅開設推進協議会」はすでに活動を休止している
小田急多摩線延伸および上溝駅の設置を目的とした自治会団体「小田急多摩線延伸・上溝駅開設推進協議会」は、採算性が見込めないことや社会情勢の変化を理由に、2022年に活動を休止しています。
上溝地区 小田急延伸推進協が休止 新組織「にぎわい創出を」 | さがみはら中央区 | タウンニュース
それを鑑みると、上溝駅への延伸は地元住民としても「難しい」ということなのでしょう。
延伸の実現可能性を探る
基本情報
- 開業想定年次 2033年度
- 想定運行本数 ピークタイム:9本/h(急行3・各停6) オフピーク:6本/h(急行3・各停3)
- 運賃設定 小田急電鉄の運賃に50円の加算運賃
- 想定事業スキーム 都市鉄道利便増進事業(いわゆる上下分離方式)
- 想定事業主体 営業:小田急電鉄株式会社 整備:公的主体
- 沿線地域開発 相模原駅周辺(前述)
採算性を考える
新規・延伸の鉄道路線で最も重要になる要素は「採算性」です。建設費の回収を行うことができずに倒産してしまったら元も子もありません。(尤も、小田急についてそのようなことはないでしょうが)
①全線を一気に整備する
- 概算建設費:1,300億円
- 輸送人員 :73.3千人/日
- 収支採算性:42年
ここで重要になるのが、「都市鉄道利便増進事業」の適用です。都市鉄道利便増進事業では、収支採算性の目安が30年程度となっており、この案ではさらに建設費の圧縮を行わない限り都市鉄道利便増進事業の適用をすることができません。
②段階的整備案 第Ⅰ期 唐木田~相模原
- 概算建設費:870億円
- 輸送人員 :53.3千人/日
- 収支採算性:26年
「相模原~上溝」の1駅を抜いただけで、かなり収支採算性の改善がみられることがお分かりいただけるでしょうか。現実的に考えるのであれば、「まず相模原まで暫定的に開業してから」上溝までの延伸を計画するのが妥当でしょう。
小田急線既存区間の整備
多摩線延伸による路線長増加・運行本数増大に対して、既存区間に対しても整備を行う必要があると考えられます。ここで、既存区間整備を行う際に実施されると考えられる2つの整備についてご紹介します。
向ケ丘遊園~新百合ヶ丘の複々線化

「多摩線の路線長が増える」ということで、考えられるのが「多摩線と新宿・千代田線方面直通本数の増加」。昼間時間帯はそこまでの差が生まれないにしろ、平日朝ラッシュ時間帯に現在複線となっているこの区間がネックとなることは避けられません。
現在、代々木上原~登戸までが複々線、登戸~向ケ丘遊園間が3線(上り2線下り1線)の区間となっており、向ケ丘遊園までの複々線延伸はかなり現実味を帯びてきています。

しかし、この区間の複々線化は採算性や沿線人口の減少を抜きにしても難しいと考えられます。
この区間の複々線化を難しくしている存在は、「並走道路」です。
小田急線の生田駅付近から鶴川駅付近までは、「津久井道」と呼ばれる道路(東京都道・神奈川県道3号世田谷町田線)が線路にぴったり貼りつくように並走しており、この道路は交通量も多いことから道路機能を保ちつつ複々線化を行う必要があります。
そこで考えられるのが「立体の複々線」と「道路の拡幅を行い線路を高架に通す」、「線路を全線地下線にする」というアプローチですが、どれも「道路機能と鉄道機能を保持したまま工事しなければならない」という前提に照らし合わせると難しいものとなっています。
このことから、建設費等を無視しても複々線化を行うことは難しいのではないかと考えています。

小田急多摩センター駅の退避設備整備

多摩ニュータウンの中心駅・小田急多摩センター駅には、現在旅客用として使用されている本線(2面2線)のまわりに「使われていない待避線」が存在します。
かつては留置線として使用されていたこの線路。現在はポイントも撤去され、完全に「線路のみ」になっています。
この線路に関する詳しい話は以下の記事で語ってるのでよかったらどうぞ。
で、この待避線跡ですが、「多摩線の路線長が伸び、多摩線内でも緩急接続する」となった際に再度ポイントが設けられ、京王多摩センター駅のように2面4線となるのではないかと考えています。
(ちなみに、下り線の新宿方には割と新しめの機器箱があります。)

運行形態はどうなる?

とりあえず「こんな感じになりそうだな~~」ってのを載せます。

朝方ラッシュ帯

パターンを考えるうえで意識したのは以下のポイントです。
①現在の「多摩センター始発で座れる電車」の確保
②延伸区間から優等列車への接続
③千代田線方面への接続の確保
それぞれについて説明していきます。
①多摩センター始発の確保
現在運転されている「通勤急行」は、大半の列車が小田急多摩センター始発となっており、橋本始発の多い京王相模原線と比べ「座席確保」の面で優位となっています。
現在の多摩線の旅客が京王線へ流れることを阻止する目的でも、この「多摩センター始発」は確保すべきだと考えます。
②延伸区間から優等列車への接続
しかし、「通勤急行」をすべて多摩センター始発にしてしまうと、延伸区間から優等列車に直接乗車することが難しくなってしまいます。
そこで、各駅停車から多摩センター駅で乗り換え、対面ホームに到着する通勤急行に乗り換えることのできるパターンとなるのが好ましいと考えられます。
③千代田線方面への接続の確保

新宿に向かう需要のみでなく、霞ヶ関や大手町方面への需要も考慮する必要があるため、【新百合ヶ丘】【成城学園前】において千代田線直通の「通勤準急」に接続し、新宿方面の旅客と千代田線方面の旅客の分散化を図ります。
昼間時間帯

昼間時間帯においては現行のダイヤをベースにしつつ、新宿ゆきの「急行」を「快速急行」とし、快速急行となった分に線内折り返しの各駅停車を1本追加しました。
で、結局実現するのか(持論)
ここまでいろいろ言ってきたわけなんですが、正直言って実現可能性は相当に低いと思います。
相模原市はリニア神奈川県駅に、町田市は多摩モノレール延伸に注力する中、「多摩モノレールで賄えないこともない」延伸計画に構っている余裕はないのではないのでしょうか。
ここで示したデータはすべて2019年のもの。コロナ禍により社会情勢も変わり、2022年に小田急多摩線延伸・上溝駅開設推進協議会が活動を休止するなど、後ろ向きな動きが見られるものの、2019年の調査以降に目立った前向きな動きは見られません。
また、少子高齢化により沿線人口が減少している上、リモートワークの普及により電車の利用客数がコロナ前の水準に完全に戻ったとも言い切れません。
以上の理由から、「たとえ相模原までであっても」延伸計画が実現するのは難しいのではないかと考えています。
あとがき
今回は、町田市で計画されている「もう一つの延伸」である小田急多摩線について扱いました。思っていた以上に未来が見えなく、調べれば調べるほど「これ無理じゃね?」という印象が勝っていきました。
町田市民として、多摩モノレール延伸とともに見守っていきたい計画のひとつです。

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