みなさま、VVVFインバータ制御装置って、どんな装置か知っていますか?
VVVFインバータとは、電圧と周波数を可変制御して、モーターを駆動するための装置で、近年の電車においてはほぼ必須の装置です。
そんなVVVFインバータ制御装置を各鉄道会社に納入する日本の企業は、主に下記の5社となっており、
- 三菱電機
- 日立製作所
- 東芝インフラシステムズ(東芝100%子会社)
- 東洋電機製造
- 富士電機
これらの企業が各鉄道会社が保有する電車などといった鉄道車両に、走行用モーターを駆動する装置として供給をしております。
ところでそんなVVVFインバータ制御装置たちにも、品番や鉄道車両の形式などのような、装置本体を示す型番と呼ばれる固有の番号が装置の種類ごとに、一定のルールに基づいて付与されております。このほかそれらに取り付けられるパワーユニットなどといった各種部品にも型番が付与されております。
今回はそんなVVVFインバータ制御装置本体の型番という分野に着目して、三菱電機製のVVVFインバータ制御装置の型番がどのようなルールで付与されているのか見ていきましょう!
なお、VVVFインバータ制御装置とはどんな装置なのかや、具体的に世界中でどんな企業が作っているのかについては、下記の記事をご覧いただけますと理解できるかと思います。
三菱電機ってどんな会社?
三菱電機は現在の三菱重工業神戸造船所にあった電機製作部を母体として、1921年に創業した日本の大手電機メーカーです。
その事業領域は幅広く、一般消費者向けの家電から重電、人工衛星まで幅広い製品を販売していることが特徴。
工場の生産ラインで用いられるFA機器(FA=Factory automation)と呼ばれる各種機械類、エレベーター・エスカレーターをはじめとした昇降機械類、タービン発電機、パワー半導体、人工衛星などといった、多くの産業用電気機器で日本国内トップシェアを保ち続けている企業であり、今回の主題である鉄道車両用電機品においても国内シェアトップを保持し続けております。
家庭用の製品としてはルームエアコン「霧ヶ峰」やIH炊飯器「本炭釜」、布団乾燥機、エコキュート、IHクッキングヒーター、照明器具、換気扇などがその代表例として知られ、特に換気扇は三菱電機が国内シェア1位となっております。
かつてはテレビ、ミシン、ビデオデッキ、パソコン用ディスプレイなどでも大きなシェアを獲得しており、特にブラウン管時代には国内有数の技術力を持つ企業として知られておりました。
そんな三菱電機が手掛ける鉄道車両用の電機品は多数あり、主な製品例を羅列してみると、
- 走行機器類:VVVFインバータ制御装置、主電動機(走行用のモーター)、WN継手、ギアユニットなど
- ブレーキシステム:電気指令式ブレーキのMBS型やMBSA型、かつてはHSC型電磁直通ブレーキなど)
- 補助電源装置:低圧電源供給用装置 静止型インバータ(SIV)、電動発電機(MG)など
- 空調関連機器:空調装置本体、ファンデリア、ラインデリアなど
- 保安装置車上子:ATS機器類、ATC機器類、ATO機器類、ATACS機器類、CBTC機器類など
- 車両情報管理システム:TIMS、INTEROS(集中方式のタイプA)など
- 旅客案内システム:主に車内の液晶ディスプレイ式案内表示器、ほかE235系の一部編成向けなどに車外LED式案内表示器も供給(E235系は森尾電機製も混在)
これだけでも不十分なほど多数の事例があり、さらに地上システムについても多数の分野で携わっているのが三菱電機。
しかもこれを世界中のさまざまな鉄道事業者に卸しており、鉄道車両用の電機品で国内シェアトップどころか、世界でも高いシェアを誇っているのが三菱電機なのです。
なお鉄道車両用電機品については分野にもよるのですが、多くは兵庫県尼崎市の伊丹製作所(通称:伊電)で生産されており、このほかインドなど海外にも生産工場を構えております。
三菱電機製VVVFインバータ制御装置の型式付与方式
まずここで一例として、下記のVVVFインバータ制御装置の型式見てみましょう。
こちらのVVVFインバータ制御装置は「MAP-214-15V335」という型式が付与されているものです。
東京メトロ有楽町線・副都心線で主に走行する17000系の10両編成に搭載されるものであり、編成中の動力車である2号車、4号車、7号車、9号車の4両に対して1基ずつ搭載され、1台のユニットの中にPMSM(永久磁石同期電動機)駆動用のVVVFインバータ制御装置が4群内蔵されております。
さてこの「MAP-214-15V335」という型式ですが、これを分解してみるとこのようになります。
MAP | – | 21 | 4 | – | 15 | V | 335 | |
要素1 | 要素2 | 要素3 | 要素4 | 要素5 | 要素6 | 要素7 |
このように7つの要素に分解することができます。
これについてひとつの要素別に見てみましょう。
要素1:制御器種類
要素1についてですが、MAPという3文字にてVVVFインバータ制御というものを表しているものと考えることができます。
由来については不明ですが、三菱電機製のVVVFインバータ制御装置は一貫してMAPで型式が始まるため、この認識で多分問題なし。
ちなみに直流電動機の場合は概ね下記の表のような形となります。
下記表はVVVFインバータ制御装置も含めて簡単にまとめたものとなります。
(例外・誤植等多数ありかと思いますので、誤記等ございましたらご容赦ください。御指摘お待ちしております)
種類 | 制御装置 |
ABF | 抵抗制御 |
ABFM※1 | 超多段バーニア抵抗制御 界磁添加励磁制御 界磁位相制御 |
CFM※2 | 電機子チョッパ制御 |
FCM | 界磁チョッパ制御 |
THB※2 | 高周波分巻チョッパ制御 |
MAP | VVVFインバータ制御 |
※1 界磁添加励磁制御については主制御機本体と添加励磁制御装置で装置が分かれているためなのか、抵抗制御と同じ型式となっている。三菱電機製の界磁位相制御は国内では小田急2600形のみの採用となるが、勉強不足ゆえ理屈は不明だがこちらも抵抗制御と同じような型式の付与法則となっている
※2:営団地下鉄向けのみほかの方式のチョッパ制御もTHBに区分されているよう。調査不足につき未解明多数。
要素2:制御される主電動機の出力
要素2についてですが、制御される主電動機の出力値を表すものとなります。
主電動機とは、電車や電気機関車など、鉄道車両が走行するための動力を生むためのモーターのことを言います。
基本的にこの数値はkw換算における主電動機定格出力の上2桁を取るものとされ、原則的にそれ以下の数値は切り上げとされます。
そのため、例の場合要素2の部分が21となっているため、210kw出力の主電動機を制御するものだとわかるのですが、例に挙げたMAP-214-15V335の場合、搭載される17000系10両編成で採用される主電動機は定格出力205kwのため、切り上げていることがわかります。
また制御される主電動機が90kw以下の場合、頭に0を付けて同様のルールを適用します。
以下にて、一部の装置を例に使用例を紹介します。
①:MAP-098-15V62 京都市営地下鉄東西線50系新車搭載時のもの
制御される主電動機は85kwのため、要素2は切り上げて09となる
②:MAP-062-60VD22 熊本市電8800形新車搭載時のもの
制御される主電動機は60kwのため、要素2は06となる
ただし、稀に制御される主電動機より小さい数値とされるケースがございます。
以下にて例外ケースを一部紹介します。
①:新京成8900形用 MAP-168-15V189
8000形VVVF化改造車の廃車発生品を移植したものだが、8900形の主電動機(MB-5018-C)は定格出力135kwであり、これがそのまま使用されているため一致しないケースとなる。
もとの車両の主電動機(東芝製だが型式名失念)が定格出力160kwのためこうなる。もとの装置の型式が「MAP-148-15V37」と、この部分の要素が14となっていることから例外となっていることが伺えるだろう。
②:京急1500形VVVF化改造車用 MAP-138-15V164
③:京急新1000形ステンレス車8両編成用 MAP-138-15V174
いずれの2車種も共通部品の155kw定格出力品を使用するのだが、上記2つの事例についてはなぜこの部分が16となっていないのか、理由不明。
1500形VVVF化改造車用に設計されたMAP-138-15V164をベースに、主電動機などを流用しながら新1000形ステンレス車に向けて最適化したものがMAP-138-15V174となる。
両者の共通予備品としてMAP-138-15V164Aというものもあるが、こちらは営業線上において一切確認されておらず、一般公開時において工場内でのみの確認となる。
ちなみに、上記の事例で紹介した京都市営地下鉄東西線50系も、機器更新後の制御装置はMAP-088-15V315と、例外ケースに該当する事例となっております。(端数を切り捨てている)
要素3:制御する主電動機の数
要素3についてですが、その装置1台で制御する主電動機の数を表します。
例ではこの要素の部分が4となるため、1台で4個の主電動機を制御するものだと分かります。
なお三菱電機製のVVVFインバータ制御では、そのVVVFインバータ制御内に何個のインバータ制御装置が入っているかを型式で示さないため、この数値は装置本体1つで何個制御するかを指すようになっています。
例で紹介しているMAP-214-15V335ももちろんその例のひとつであり、こちらは内部構成として1つの主電動機を制御するインバータユニットが4群入った装置となっております。
MAP-214-15V335の本当の構成を推測
おそらくをインバータユニットが2群入った装置を2群搭載する構成のものであり、東芝でいうところの「2in1形」のVVVFインバータ制御を2群搭載するものとなっているものと推測しますが、本当のところは知りません。
例によってこちらも実際に制御される個数より数字が上となる場合がございます。
要素4:入力される電気の電圧
要素3についてですが、架線や第三軌条などから集電される架線電圧を表しております。
基本的に架線電圧の上2桁を表しており、「60」であれば600V、「15」であれば直流1500Vのような形です。
なおこの様式で付与されるパターンは直流電源の場合であり、交流電源の場合は数字の頭に「A」を付けて区別することとなります。(この場合はコンバータを内蔵することから装置呼称もVVVFインバータ制御装置ではなく主変換装置となりますね)
そのため、MAP-214-15V335の場合、直流1500V電源を使用するものだと分かります。
以下にて、一部の装置を例に使用例を紹介します。
①:MAP-124-60V64 東京メトロ丸ノ内線 方南町支線用02系80番台
第三軌条からの集電電圧が直流600Vのため、要素4に該当する部分が60となる
②:MAP-148-75V303A 横浜市営地下鉄ブルーライン4000形
第三軌条からの集電電圧が直流750Vのため、要素4に該当する部分が75となる
③:MAP-196-15V335 福岡市地下鉄空港線・箱崎線用4000系
架線からの集電電圧が直流1500Vのため、要素4に該当する部分が15となる
④:MAP-204-A25V41 ソウルメトロ(韓国)4号線4050系(初代451編成~463編成 機器更新前)・1号線1000系(101編成~110編成)
交流電化区間を走る際の架線からの集電電圧が交流25000Vのため、要素4に該当する部分がA25となる
なお、これらの車両は直流1500V区間も走行する
⑤:MAP-194-A25V268 港鐡(香港MTR) 東鉄線R-Train
架線からの集電電圧が交流25000Vのため、要素4に該当する部分がA25となる
⑥:MAP-111-A55V153 日暮里・舎人ライナー用300形等
剛体側線からの集電電圧が交流600Vのため、要素4に該当する部分が本来はA60となるのだが、この車両も含め日本の新交通システム用の車両ではなぜか交流550Vを示すA55になっている
550V換算となっている理由の推察
日暮里・舎人ライナーなどの路線が該当するいわゆる「新交通システム」という中菱輸送方式の路線だが、昭和末期に日本交通計画協会にて制定された新交通システムの標準化を定める文書において、電源は原則直流750Vとすると定められており、これまでの新交通システムを採用した路線でも直流電化路線においては標準とされた750Vの電源が採用されている。
ここで550V換算で設計されたと考えられる車両に、西武山口線(レオライナー)の初代車両である8500系があるのだが、同車は直流750V電源で運用する路線である一方、制御方式としては交流電源を用いるVVVFインバータ制御が新交通システム(と、西武)で初採用されており、この際にVVVFインバータ制御装置からの出力電圧と交流誘導電動機の形態を取る主電動機の端子電圧がどちらも550Vとされており、以降も新交通システムにおけるVVVF車はVVVF出力電圧・主電動機端子電圧とも550Vとされている例が多い。ただしニュートラム(Osaka Metro)200系のように、550V以外の数値となっている車両も存在する。(ニュートラム200系は700Vとなっている。)
これを標準としたうえで使用が決定されているためか、550V換算とされているのではないかと考えられる。
ただし、標準仕様規格が決められた時点で既に直流750Vと交流600Vが混在しており、標準化規格策定の時点では路線長が長く車両数が少ない路線は直流750Vが、路線長が短く車両数の多い路線は交流600Vが有利とされている。
標準規格策定以降も日暮里・舎人ライナーだけでなく、六甲ライナーやゆりかもめなどでも交流600V電源が採用されており、これら2路線と同じく交流600V電源が採用されているポートライナーの3路線で採用されている三菱電機製の主変換装置は、いずれも要素4の部分がA55となっている。
要素5:ブレーキ方式
要素5についてですが、電気ブレーキの方式を表しております。
とは言っても基本的にはここにはVが入り、このVとは回生ブレーキを表しております。
このほかVDと入る車両も近鉄を中心によく見かけ、こちらは回生ブレーキと発電ブレーキの両方が使用可能なことを表しています。
ちなみに発電ブレーキのみが使用可能な場合はDを用いるはずですが、VVVFインバータ制御装置を搭載する電車では回生ブレーキを採用するケースが殆どであるため、Dのみを使用する事例は今のところ確認できておりません。
発電ブレーキ:ブレーキ時に主電動機を発電機として動作させて、フレミング右手の法則により電気エネルギーを発電するが、その発電した電気エネルギーを自車に搭載する抵抗器に流して、熱エネルギーに変換して捨ててしまうブレーキ方式
回生ブレーキ:ブレーキ時に主電動機から得た電気エネルギーを発電するが、その発電した電気エネルギーを架線に返したり、自車の蓄電池などに蓄えることができるブレーキ方式
以下にて、一部の装置を例に使用例を紹介します。
①:MAP-198-15V260 小田急8000形SiC-VVVF試験採用品
回生ブレーキを採用するため、要素5の箇所がVとなる
②:MAP-174-15VD367 近鉄1437系機器更新車
回生ブレーキと発電ブレーキの両方を場合に応じて使い分けるため、要素5の箇所がVDとなる
要素6:固有番号
最後の要素6は固有番号であり、01から恐らく開発順かと思いますが、順に付与されていきます。ただし小改良レベルでも違う形式への搭載となると新しい型番が付与されることとなります。
なお同じ装置を小改良して他の車両などに使いまわしたり、時代の進歩による使用可能な部品の制約などによって小改良を施すケースなどがあり、その場合は後ろにサフィックスのアルファベットを付与します。(A、B、C…)
ここでは例として近鉄特急電車で採用されたMAP-234-15VD102を紹介しますが、この装置は21020系「アーバンライナーnext」、22600系「Ace」、50000系「しまかぜ」で基本的な機器構成も含めて使いまわしているものと推察されます。
ただし細かい仕様面において違いがあるためか、それを形式ごとにサフィックスで区別しており、無印の「MAP-234-15VD102」は2002年登場の21020系「アーバンライナーnext」にて、サフィックスがAの「MAP-234-15VD102A」は2009年登場の22600系「Ace」にて、サフィックスがBの「MAP-234-15VD102B」は2012年登場の50000系「しまかぜ」にて採用されております。
これが要素7となるのですが、今回はこの場で一括にて紹介します。
おわり
ここまで三菱電機製のVVVFインバータ制御装置について、型式附番法則を説明してきましたが、JRグループ各社や都営地下鉄など、このルールに基づかない事業者独自のルールで附番される場合もあるため、ご注意ください。ただし、その場合でも三菱独自で社内型番という扱いで何らかかありそうですが…
最後までご覧いただきありがとうございます。
次回は日立製作所編…乞うご期待!
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参考
- 音のでる鉄道写真館様
https://www.asahi-net.or.jp/~kk6y-mrk/ - 日立評論 新都市交通システム
https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1986/03/1986_03_07.pdf - 社団法人日本交通計画協会 新交通システムの標準化とその基本仕様
https://www.jtpa.or.jp/custom_contents/cms/linkfile/material198303.pdf - 東洋電機技法 横浜新都市交通株式会社2000型電機品(インターネットアーカイブ)
https://web.archive.org/web/20141107013831/http://www.toyodenki.co.jp/html/giho/giho123/s12321.pdf - 東洋電機技法 大阪市交通局南港ポートタウン線ニュートラム新型車両200系用電機品(インターネットアーカイブ)
https://web.archive.org/web/20221108081328/https://www.toyodenki.co.jp/technical-report/pdf/giho133/s133-08.pdf - 鉄道ピクトリアル 2016年12月臨時増刊号 東京地下鉄特集
- Wikipedia
この記事を書いた人
- 鉄道をはじめとした乗り物の動画を作りつつ、趣味に明け暮れる日々。最近は将来設計的な悩み事が色々と…
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