みなさま、電車1両を作るのに、どのくらいの部品が必要なのか、ご存じでしょうか?
車両や用途などによっても差は生じると考えられますが、電車を1両を作るのに軽く10万点以上は余裕で必要となるはずです。
ちなみに通勤電車1両にて、電線だけでも1万点前後が必要!(参考:京成3100形で1両約8500点)
また自動車を1台作るにあたって必要な部品の数は、小さなネジまでも含めてざっと3万点ほどで、こういうところからも軽く10万点以上の部品が1両の鉄道車両で使われていることが想像できるでしょう。
そんな幾つもの機械を組み合わせた「機械の集合体」とも呼ぶべき鉄道車両。
その部品も大きなものから小さなものまでさまざまなものがあり、様々な部品に大なり小なり様々な企業が製作した部品が組み合わされるのですが、今回は「VVVFインバータ制御装置」という大きな部品について焦点を当て、見てみましょう。
VVVFインバータとは?
VVVFインバータとは、電圧と周波数を可変制御して、モーターを駆動するための装置です。
電車や電気自動車など、電気を動力として車輪を駆動することで動く乗り物を駆動するために近年よく使用されるものであり、もっぱら駆動用モーターの速度やトルクを制御するために使われています。
ざっくりどんな装置なのかと言うと、架線やバッテリーから供給された直流電源を交流電源に変換し、交流電源で動くモーターの速度を制御するものです。
出力される交流電源の電圧と周波数を自在に操って制御するものであり、「可変電圧・可変周波数制御」を直訳で英語にした「Variable Voltage Variable Frequency」という単語を縮めて「VVVF」と呼ばれております。
ちなみにこのVVVFインバータという単語は和製英語で、英語圏などでは用いられていない模様です。ただし日本の影響を受けたアジア圏を中心とした一部の国(韓国など)では、日本式のVVVFという単語がそのまま使用されているようです。
VVVFインバータによって制御される駆動用のモーターは誘導電動機や同期電動機などと呼ばれる種類のものが多く、電車ではかご型三相誘導電動機と呼ばれる構造のモーターを制御することが多いです。
このほか永久磁石同期電動機(PMSM)が用いられることもあるほか、最近では同期電動機の一種である同期リラクタンスモーター(SynRM)を用いた鉄道駆動用モーターを三菱電機が実用化し、こちらの制御にもVVVFインバータが用いられております。
ちなみにハイブリッドカーや電気自動車においては重量やトルク特性の問題などからPMSMを使用・制御する事例が多いですが、PMSMは構造上レアアースやレアメタルといった入手性が困難な材料を使うケースが非常に多いです。
そのため電気自動車の分野においても一部でそれを必要としない誘導電動機を用いることがあるほか、近年では日産が巻線界磁型同期電動機(EESM)を実用化してプレミアムSUV・アリアに搭載するなどの動きがあります。これらも当然ですがVVVFインバータ制御によって動きます。
鉄道の分野でもPMSMにレアアース・レアメタルを使うことは問題視されており、SynRMの開発もその一環と考えられるほか、電車用EESMの研究も進んでいるようです。
なお、詳しく説明すると非常に長くなってしまうので、ここでは簡単な概説のみに留めておきます。
主な鉄道用のVVVFインバータ制御装置の製造メーカーとは?
鉄道車両用のVVVFインバータ制御装置を製造できる企業というのは、実はとても限られております。
まずは限られる理由を見る前に、本題である「どんな企業が作っているのか?」というところを見てみましょう。
日本国内企業
- 三菱電機 JR東日本、東京メトロなど、国内外で多数実績あり。(国外は香港MTR向けで多数実績あり、そのほか台北捷運など)
- 日立製作所 JR東日本、JR西日本、イギリス国鉄など、日本国内外で多数実績あり
- 日立レール 日立のイタリアにおける鉄道子会社、旧アンサルドブレーダ→日立レール・イタリ 日本国内では日立本体が納入するためか実績はないが、アジアでは台湾・台北捷運の環状線で走る電車などで採用実績があり
- 東芝インフラシステムズ JR東海で多数実績があるほか、JR西日本、阪急(京都線系統除く)など、日本国内外で多数実績あり(日本国外は台湾・台鉄、韓国など 韓国向けは宇進産電と手を組み多くは韓国国内で製造されて納入。) 東芝の100%子会社、分社化前の東芝納入分は東芝本体の社内カンパニーであるインフラシステムソリューション社が製造・納入
- 東洋電機製造 伝統的に京阪、京成、阪急京都線系統で多数採用、そのほかにも日本国内外で多数実績あり(国外はインドネシア・ジャカルタMRT、アルゼンチン・ブエノスアイレス地下鉄向けに輸出された中古の名古屋市営地下鉄車両など。北京地下鉄1号線向け車両などで現地子会社による現地生産品の搭載事例もあり。) 日本ではパンタグラフの納入事業者としても有名
- 富士電機 日本では新幹線の一部車両と山陽電車、国鉄207系900番台(モハ207-902のみ。原設計日立)、JR東日本209系900番台(更新前、更新後は三菱)程度。
日本国外企業 ※主な企業のみ
- シーメンス(ドイツ) 日本ではJR東日本や京急、広電で採用実績あり(JR東日本、京急からは消滅済) ドレミファインバータがとくに有名
- アルストム(フランス) 日本での実績はないが、フランス国内を中心にヨーロッパで多数実績あり。またアジア圏ではGECアルストム時代に韓国の地下鉄用電車で多数実績あることなどが日本では有名。下記ボンバルディアやアドトランツから引き継ぎ、新潟トランシスがライセンス生産をするいわゆるブレーメン形超低床路面電車向けの部品供給などでそのほかの部品において日本での採用実績はアリ。小田急でよく採用されたアルストムリンク式台車もこの企業が開発したことに由来する。
- ボンバルディア・トランスポーテーション(ドイツ) 日本での実績はないが、ヨーロッパでは多数実績あり。アジアでは台湾・台北捷運C301型の機器更新用(更新前は米ウェスティングハウス製の変調が多すぎることで有名だったもの)、C370型などで採用されている。鉄道関連企業として世界トップクラスの企業だったが、2021年にアルストムに吸収されて消滅
- アドトランツ(ドイツ) 日本ではかつて熊本市電9700形の一部で採用実績あり(第3編成まで。第1編成は機器更新、ほか2編成は廃車により消滅)。そのほか香港MTRの東涌線・機場快線(AirPort Express)用のA-Train(設計はその前身の1社であるAEG)など。2001年にボンバルディアに吸収されて消滅
- ABB(スイス) 日本での採用実績はなし。海外では多数実績があり、アジアでは韓国・ソウルの地下鉄5号線用の開業時に導入された電車(5000系1次車~3次車)、台湾・台北捷運C321型機器更新用(更新前はシーメンス製)など
- 中国中車(CRRC、中国) 日本での採用例はなし。中国国内を中心とした採用、輸出事例も少なからず存在
- 現代ロテム(韓国) 日本での採用例はなし。2000年代後半ごろより韓国国内を中心に多数採用例があり、輸出事例も少なからず存在
※製造企業名は太字で表記し、経営統合などにより現在作っていない企業は太字斜体としております。閲覧環境などにおいては正しく記載されない可能性があることご了承ください。
探せばもう少しあると思うのですが、ざっと主な企業ってどこだろう?と筆者がぱっと考えた場合、近年の世界における経営統合などの動きもあってかこの程度しかすぐに浮かびませんでした。
もちろん、地元の国の車両だけに卸している企業や、主な企業の子会社や現地合弁会社、技術提携先が製造する事例など、これ以外にも多数あるのは事実です。
しかしそれを考えたとしてもせいぜいプラス十数社~100社に満たない数字であると当方では考えており、それを考えても相当少ないと言わざるを得ず、主要国でも自分の国の中にこの装置を作れる企業がない場合もあるのです。
そう、実は鉄道用の大電力を扱えるVVVFインバータ制御装置って、ものすごく限られたごく一部の企業でしか作ることができないのです。
日本のように自国の中に供給する事業者が5社もあるなんて事例、そのほかの国では到底考えられないと言っても過言ではないと思います。
鉄道用VVVFインバータ制御装置を製造できる企業が限られる理由
さてここからは筆者の独自見解を含みます。
鉄道用のVVVFインバータ制御装置は電力機器向けの高電圧・大容量の電流を制御することが可能ないわゆる「パワー半導体」と呼ばれるものを使用する装置の中でも、比較的大電力を扱う装置となります。
もちろん大電力を扱うパワー半導体というのはハイテク産業の要とも言うべきものであり、製造できる企業もかなり限られてしまいます。
場合によってはVVVFインバータを製造しているほかの事業者や、ローム、インフィニオンなどの他社からパワー半導体の供給を受けて製造される事例もあり、日本では三菱電機などからパワー半導体の供給を受けて、自社では設計や制御ソフトウェアの開発などを手掛ける東洋電機製造などがそれに該当します。
しかしこのおかげもあって鉄道車両用のVVVFインバータ制御装置を製造できる企業は、世界を探しても限られることとなるのです。
ここからは余談です。
鉄道趣味者であればよく聞くであろう「GTO」や「IGBT」といった素子は、このパワー半導体として用いられる半導体素子の種類を示す名称となります。
※SiCというのは素子の種類ではなく、半導体素子の素材を表すもののため注意。
SiC(炭化ケイ素)は半導体の素材で主に用いられるシリコン(Si)よりも電気抵抗率が1/10になる特性を持ち、さらにより高温での動作が可能になる特性を持っております。
この素材でパワー半導体を作ることによって、従来の装置よりも省エネ化を図るようにできるだけでなく、冷却機構を含めた装置本体の小型軽量化を達成することが可能となるのですが、あくまでも素材の名前です。
素子としては一般的にハイブリッドSiCと呼ばれるトランジスタ部はシリコンのままダイオード部をSiC化したものはIGBT、トランジスタ部までSiC化したものはMOSFETが用いられることが多いです。
厳密にはもっと詳しい説明が必要となるのですが、ここでは簡略化のためこの程度の説明で留めておきます。
また求められる車両性能のために必要なプログラム設定や、メーカーごとの技術的・仕様的な差異や考え方などによって、その制御回路や構成などが異なることとなります。
それにプラスしてインバータ装置から発せられる高調波ノイズが、鉄道の運行にとって重要な保安装置の作動に悪影響を与えてしまう恐れもあり、このことや場合によって静粛性などの乗客への快適性まで加味したうえで制御ソフトウェアが決められ、これが結果として主に低速域に発する独特の音の要素になると考えることができます。
下記のYouTubeチャンネルでさまざまなVVVFインバータ制御車両の音に着目した動画を多数配信しておりますので、よろしければ見ていただけるとより余談の理解が深まると思います。
さいごに
VVVFインバータ、いいですよ。音も、装置の外観も…
今後もVVVFインバータに関する記事を中心に、拙い知識ではございますがマイペースに執筆を続けたい次第でございますので、よろしければ今後も閲覧いただけましたら嬉しいです。
最後までご覧頂きありがとうございました。
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この記事を書いた人
- 鉄道をはじめとした乗り物の動画を作りつつ、趣味に明け暮れる日々。最近は将来設計的な悩み事が色々と…
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