GV-E197系は本当に”非力”なのだろうか【勝手に性能計算委員会 #1】

こんにちは、こづるしんでんです。
鉄道車両の性能を計算によって数字で求める、勝手に性能計算委員会。

今日はGV-E197系がどれくらいの牽引力を持つのか計算していこうと思います。ちょっとむずかしめの計算にはなってしまいますが(筆者自身もよくわかっていませんが)噛み砕いて説明するので、最後までお付き合いください。

計算はあくまで推定で、正確な値を保証するものではありません。あと各所で定数を甘く見積りすぎて誤差が大きくなってるところがありますが、目を瞑ってください。

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GV-E197系とは?

まずは車両の説明。GV-E197系はJR東日本の電気式気動車で、エンジンで発電した電気でモーターを動かす方法が採用されています。主な仕事はバラスト散布ですが、電車の配給やSLの補機など、以前でいうところの機関車のようにいろいろと使われています。

  • 基本編成:1両単位で運用、今回は2両編成を牽引力計算の基準に
  • 総重量:2両で116 t
  • モーター出力:合計440 kW
  • 粘着力:μ = 0.25

で、よく言われるのが「GV-E197系、力不足じゃない?」ってこと。

ただそれは大体明らかな根拠がない話なんですよ。ということは、牽引力を実際に数字で求めるしかない!ということで計算していきましょう。

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前提条件と値の求め方

写真:びゅう

GV-E197系の牽引力を考えるには、まず どのくらいの力が出るのか、そして 引く車両の抵抗がどれくらいか を整理する必要があります。ここで使った値の求め方を一つずつ解説していきます。

①牽引車の重量と粘着力

ではまず、GV-E197系の粘着力から考えていこうと思います。粘着力とは、車輪とレールの間の摩擦力のこと。摩擦力と聞くと、一見小さい方がいいんじゃない?と思うかもしれませんが、実はとっても重要。

実は、粘着力が小さいと車輪が空転してしまい、加速できなくなってしまうんです!ということで、計算していきましょう。

粘着力の公式はこちら。めんどくさいので高校物理の静止摩擦力の公式を使いました。間違ってたらすみません。

粘着力F_max[N] = 摩擦係数μ × 質量m[kg] × 重力加速度[m/s2]

  • 摩擦係数 μ = 0.25:乾燥したレールだと仮定します。
  • 質量=2両で116 t = 116000 kg:実際の車両データから。1両約58tなので2倍します。
  • 重力加速度=9.8 m/s2:よく使う重力加速度の値。

で、この値をさっきの式に入れてあげて計算すると、F_max = 116000 × 0.25 × 9.8 = 284200 Nです

これをkgfに変換すると、だいたい29000 kgfになります。つまり、車輪が滑らなければ、この力まで車両を引っ張れます。

数字を見て力の大きさをイメージできなかった人へ……

1kgにかかる重力が1kgfなので、29000kgf(29tf)は、大人のオスのアフリカゾウ4~5匹を持ち上げるぐらいの力です。思ったより大きいですね。

2) モーター出力と速度による牽引力

はい次。モーターの出力で発生する牽引力の力を計算して行きましょう。

GV-E197系は110 kWの主電動機を4機積んでいるので、出力は440 kWです。

で、今度は仕事率の式を使うと……

引っ張る力F_pull[N] = 主電動機出力P[W] / 速度v[m/s]

この式で使われるPは、本来は車輪が路面に力を加えて行う仕事のことを指します(主電動機->車輪に変換する際にエネルギーのロスが生じるため)が、めんどくさいので目を瞑ります。すみません。

例えば、時速10kmの時を考えてみましょう。10 [km/h] = 2.78 [m/s]なので、先ほどの式に代入すると、F ≒ 158000になり、大体16100kgfだと分かります。

同様に時速30km/hの時は5390kgf、60km/hの時は2685kgfになります。速度が速くなるほど、牽引力が小さくなっていることが分かりますね。

で、低速時は粘着力が、高速時では出力が牽引力に影響するので、今まで計算した2つの値は 

牽引力F[N] = min⁡(F_max, F_pull)

という式にできます。

低速時は車輪の粘着力が制限となり、高速時はエンジンの出力が牽引力を制限します。この二つの制約によって、車両が前に進む力が決まるんですね。

3) 客車・SLの重量と走行抵抗

はいつぎ。車両を引っ張る力を考えたら、今度は車両を動かないようにする、いわゆる走行抵抗について考えていきましょう。今回引っ張る対象にするのは、「12系客車3両+D51(死重)」と「E131系800番台」です。

走行抵抗で含まれているのは、転がり抵抗、速度比例抵抗、空気抵抗の三つです。そこまで厳密ではありませんが、少し考えてみましょう。

GV-E197系の走行抵抗

牽引する側=GV-E197系自身も走行抵抗を持っています。で、GV-E197系の重量は116t。

まず考えるのは転がり抵抗から。転がり抵抗の計算方法は、

転がり抵抗Fr[N] = 転がり抵抗係数×重さ[kg] ×重力加速度[m/s2]

で、転がり抵抗係数を0.0016にして計算すると、Fr= 1820[N] = 186[kgf] になります。で、ちょっと大きすぎるのと計算上の都合で150 kgfということにしましょう。

次は空気抵抗について。単純に前面投影面積だけで求めると値が小さくなりすぎるので、その辺にある式を使います。てことで、0.0406 kgf/(km/h)²になりました。

あと速度比例抵抗は、0.02 kgf/t・(km/h)になるので、GVの重量から計算してやると、だいたい2.3 kgf/(km/h)になり、おおよそ2 kgf/(km/h)になります。よって、

R(v) = 150+2v+0.0406v2 [kgf]

になります。※Vは速度(km/h)です。

引っ張られる側の走行抵抗

次に12系客車とSL、あとE131系800番台の走行抵抗について考えていきましょう。

基本的には上のGVと同じ感じで計算していきます。詳しい計算過程は割愛しますが、結果的に

R_12系1両​ = 50+0.6v+0.01v2

R_SL = 123+1.5v+0.015v2

R_E131系4両 = 4×(48+0.50v+0.009v2)

という感じになります。

4) 勾配抵抗

車両側の抵抗はだいたい考えましたが、最後に地形要因の抵抗値、つまり勾配による抵抗値を求めていきましょう。

勾配抵抗の求め方は以下の通り

勾配抵抗(kgf)=重量(t) × 勾配(‰)

ということは後で重量が出揃ったら計算すればいいですね。

牽引できる両数を考えよう!

ということでお待たせしました。牽引できる両数を計算していきましょう

SL+12系

まずはSL+12系から。編成イメージとしてはSL1両+12系N両をGV-E197系で牽引した時を考えます。

そうすると結果はこちら。

速度勾配最大12系両数 N
10 km/h0‰277
10 km/h10‰33
10 km/h20‰15
30 km/h0‰64
30 km/h10‰6
30 km/h20‰1
60 km/h0‰16
60 km/h10‰0
60 km/h20‰0
75 km/h0‰9
75 km/h10‰0
75 km/h20‰0
90 km/h0‰4
90 km/h10‰0
90 km/h20‰0

こんな感じですね。低速で平地だと理論値で270両引けるということになってますね(笑)

ただし、速度が速くなっていくごとに、勾配が大きくなっていくごとに牽引できる両数が少なくなっています。(ちょっと勾配のやつ大きく設定しすぎたかなあ)

まあSL・GVぐんまで12系の減車が行われたのもギリギリ納得ですかね。ただし世間で言われているほど非力というわけではなく、普通に運用する分には大丈夫な性能になっているのではないでしょうか。

E131系800番台だと?

次に、GVが配給を担当するE131系800番台を何両引けるかを計算してみました。

速度勾配最大E131両数 4両編成換算(編成数)
10 km/h0‰29674 編成
10 km/h10‰399 編成(+3両余り)
10 km/h20‰194 編成(+3両余り)
30 km/h0‰7218 編成
30 km/h10‰102 編成(+2両余り)
30 km/h20‰30 編成(3両)
60 km/h0‰205 編成
60 km/h10‰20 編成(2両)
60 km/h20‰00 編成
75 km/h0‰123 編成
75 km/h10‰10 編成(1両)
75 km/h20‰00 編成
90 km/h0‰71 編成(+3両余り)
90 km/h10‰00 編成
90 km/h20‰00 編成

まあ平地なら結構な両数を引けそうですね。勾配で引ける編成数が0になってるところもありますが、運用時に速度を落とすなりすれば対応できそうな範囲ですね。

牽引力OKなら2編成まとめてE131系配給すればいいのに(無理)

まとめ

ということで、GV-E197系の牽引性能を、粘着力・出力・走行抵抗・勾配の4つの要素からフェルミ推定してみました。

計算の結果、低速・平地であればとんでもない両数を牽ける一方、速度が上がるほど、そして勾配がきつくなるほど牽引できる両数が急激に減少する、といういかにも普通の機関車といった感じな結果になりました。

よく言われる

「GV-E197系は非力だ」

という評価は、実際のところはそうでもなさそうですね。なんならSLの動輪引きずるぐらいのパワーはあるし

SLの補機として速度を落としたり、配給列車で低速運転したりする前提であれば、実際の運用に支障のない性能をしっかり持っていることが分かりました。

「意外とやるじゃん、GV!」
そんな結果だったと思います。

次回はあるのかな……? 最後までご覧いただきありがとうございました。

この記事を書いた人
こづるしんでん
こづるしんでん
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